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内部寄生虫
クリプトスポリジウム(Cryptosporidium)とは爬虫類、鳥類、魚類、両生類、哺乳類などの動物および人にも感染する寄生虫(原虫)です〔Fayer 1997〕。感染すると、症状は胃腸障害ですが〔Navin et al.1984〕、動物によっても症状が異なります。原虫であるクリプトスポリジウムのオーシスは水中では数ヵ月感染能力を持ち、オーシストを含んだ水、感染した生体の吐物や糞を介して伝搬ます。薬剤耐性が強く、通常の塩素の消毒でも死滅しませんので、汚染された水から感染するため、衛生管理が整っていない発展途上国で蔓延し、食中毒のような下痢症状を引き起こす人獣共通感染症としても有名です。
爬虫類のクリプト
クリプトスポリジウム感染症は、40種のヘビ、15種のトカゲ、2種のカメからなる少なくとも57種の爬虫類で報告されていますが〔O’Donoghue 1995〕、特にヒョウモントカゲモドキでのクリプトスポリジウムの寄生が蔓延していることから問題視されていますが、他にもヘビにも症症します〔黒木ら2002〕。爬虫類に寄生するクリプトスポリジウムは以下の種類が報告されています〔Fayer et al.2000,Xiao et al.2000,Xiao et al.1994,Plutzer et al.1997〕。
種類 | 感染動物 |
C.serpentis | ヘビ・トカゲに寄生 |
C.varanii(saurophilum) | トカゲに寄生、まれにヘビ |
この2種類以外に複数のクリプトスポリジウムの存在が報告されていますが、寄生する爬虫類種や病原性など一部しか解明されていません〔〔Upton 1989,da Silva et al.2014〕。クリプトスポリジウムと診断された幅広い爬虫類を考えると、圧倒的にヘビやトカゲに感染しており、年齢や性差における感染率は知られていません。なお、一個体に複数の種類のクリプトスポリジウムが寄生することもあります〔黒木ら2002〕。
症状
免疫能力のある場合は無症状で、他の病気に感染したり、ストレスを受けると、発病する可能性が高くなります〔 Rataj et al.2011〕。症状は基本的に胃腸障害ですが〔Graczyk et al. 1989〕、慢性的であることが多く、特にヘビでは重症になります〔Xiao et al.1994〕。爬虫類では胃や腸の粘膜にクリプトスポリジウムが寄生し、胃炎や腸炎を引き起こします。しかし、寄生して無症状期間が長期であったり、症病して急死することもあれば、慢性的に経過を示すなど様々です。
ヒョウモントカゲモドキの腸炎
ヒョウモントカゲモドキでは462頭中40頭(9%)から検出された報告もあり、この種の飼育下の個体群における感染率が高いことを示しています。検出された種類はC.varanii(saurophilum)は462頭中32頭(7%)、C.serpentisは462頭中8頭(2%)でした〔Yimming et al.2016〕。C.varanii(saurophilum)は一般的にトカゲに存在すると考えられ〔Morgan et al.1999〕、主に小腸に寄生し、食欲不振、下痢や軟便、体重減少および削痩などの非特異的な症状です。削痩すると脂肪のついた尾が細くなるため、スティックテール病と呼称が使われています。中には突然死することもあります〔五箇ら2009‐2010〕。
動物園などの展示施設で飼育されているトカゲ(野生の日本在来のトカゲが多い)のクリプトスポリジウム保有率は約11.0%、ペットの外来のトカゲでは66.7%と、これは面白い報告です。ペットのトカゲは海外から輸入されたものが多く、感染率が高いです。一方で日本在来のトカゲが多い展示施設では感染が率低いのです。海外の人気のあるトカゲの方が感染が蔓延しているようです〔五箇ら2009‐2010〕。
トカゲの種類別におけるクリプトスポリジウムの感染実験の報告があり、ヒョウモントカゲモドキ、オビトカゲモドキ、ニホンヤモリ、ヒラオヤモリ、オキナワキノ ボリトカゲ、アオカナヘビに感染をさせて症状を観察しました。その結果、ヒョウモントカゲモドキは感染後40週に死亡する個体が見られ、鹿児島県徳之島固有種であるオビトカゲモドキでは病状の経過が早くて5週で死亡しました。それ以外のトカゲでは、死亡せずに感染後12週ではクリプトスポリジウムの寄生率が減少し、病変が軽減していたそうです。つまり、トカゲの種類によって、寄生率と病状に相違があったということです〔五箇ら2009‐2010〕。ヒョウモントカゲモドキのトカゲモドキ科以外に、ヤモリ科、アガマ科、オオトカゲ科、カナヘビ科、イグアナ科、カメレオン科などの種類にも感染しますが、その病原性についての詳細は不明です。
ヘビの胃炎
C.serpentisはヘビから検出されやすく〔Bronsdon 1984,Pedraza-Díaz et al.2006〕。症状は、食欲不振、嗜眠、嘔吐、体の中央の腫れ、および体重減少や削痩です〔Fayer 1997〕。胃に感染したクリプトスポリジウムは炎症を起こし、胃壁を肥厚させるため体の中央部が腫れてきます〔Brownstein et al.1977〕。哺乳類や鳥類とは異なり、感染および発病は幼若体よりも成体に頻繁に発生します〔Ramirez et al.2004〕。クリプトスポリジウムの保有率は低いものではなく、11.98%〔da Silva et al.2014〕、35%〔P.Díaz a S 2013〕という報告があります。現在の研究ではトカゲに発病する C.varaniiがヘビでも多く検出され〔Xiao et al.1999〕、一部の調査ではコーンスネークで106頭中17頭から検出され(16%)、高い有病率を示しています〔Yimming et al.2016〕。しかし、C.varaniiはヘビに感染しても、顕著な症状は見られないとも言われています〔Plutzer et al.1997〕。なお、コーンスネーク以外のヘビでは68頭中2頭(3%)と低い割合でした〔Yimming et al.2016〕。感染するクリプトスポリジウムの種類、または動物種によって無症状になることもあります。そのため、ヘビでは上記2種類の爬虫類の病原性種以外に、餌としての獲物(マウス)を摂取して感染することがあり得ますが、病状が見られません。そのために、クリプトスポリジウムという属だけの診断ではなく、どの種類のクリプトに感染しているのかを鑑別することが重要になります〔Morgan et al.1998, Pedraza-Diaz et al,2009〕。クリプトスポリジウムに感染したヘビが免疫力が低下して寄生虫が体内で増殖して排泄すると、その結果人間を含む他の動物に広がる機会を増やします〔Rataj et al.2011, Rinaldi et al.2012〕。ヘビのクリプトスポリジウム感染の調査から、C.parvum,C.muris,C.andersoniが分離され、感染したげっ歯類または他の獲物をヘビが餌として摂取したことに起因しています〔Xiao et al.2004,Pedraza-Díaz et al.2009,Morgan et al.1999,Richter et al.2011,Díaz et al.2013〕。 C.parvum,C.muris,C.andersoniは哺乳類のクリプトスポリジウムと見なされ、ヘビには病原性を示しません〔Graczyk et al.1996,Graczyk 1998〕。したがって無症状のヘビから検出されたクリプトスポリジウムは、種類の特定が重要になります〔Graczyk et al.1996〕。
人獣共通感染症
クリプトスポリジウム症は、特に免疫不全の人に、粘液性または出血性の下痢、発熱、嗜眠、食欲不振を引き起こし、死亡をすることもあります〔Katsumata et al.2000,Gatei et al.2002,Lassen et al.2014〕。C.murisは人獣共通感染症のクリプトスポリジウムであり、ペルー、タイ、インドネシア、フランス、ケニアのHIV患者で報告されています〔Palmer et al.2003〕。C.andersoniは中国の232人の外来患者のうち21人の下痢患者で発見され〔Jiang et al.2014〕、レッサーパンダで最初に報告された種類です〔Wang et al.2015〕。ヘビにクリプトスポリジウムに感染したマウスを与えると、糞便、水、汚染された機器を介して病原体が人間に感染する可能性が懸念されています。
診断
クリプトスポリジウムの診断は難しく、糞便検査でオーシストを確認して診断できますが、数回の検査でも見つからないことも珍しくはないです。確実な診断は、吐物や糞を用いた遺伝子(PCR)検査になります。ただし、日本で現在行われているPCR検査はクリプトスポリジウムの属までの診断になります。
治療
クリプトスポリジウム症の治療には、ハロフジノン、スピラマイシン、スルホンアミド、ニタゾキサニド、アジスロマイシン、パロモマイシンなどが用いられますが、有効な治療薬は無いため、爬虫類の感染では完治することはないといわれています〔Carmel et al.1993〕。ヒョウモントカゲモドキではアジスロマイシンによる治療は効果がなく、完全な駆虫結果ではありませんでしたが、パロモマイシンによる治療では、臨床症状が改善した例もいました〔Pantchev et al.2008 〕。パロモマイシンはアミノグリコシド系抗寄生虫薬です。パロモマイシンには抗菌作用がありますが、高用量で長期間使用すると腸内細菌叢の異常が起こるため、腸内アメーバ症、皮膚リーシュマニア症、またはクリプトスポリジウム症の治療に使用すると副作用が発現する場合があります。パロモマイシンは爬虫類において、難治性の腸管アメーバ症およびクリプトスポリジウム症の治療に限られた効果で使用されています〔Grosset et al.2011,Richter et al.2012,Pantchev et al.2008,Paré et al.1997〕。これまでの文献でも様々なクリプトスポリジウム感染動物においてのパロモマイシンの治療報告があげられています。ヘルマンリクガメに、100mg/kgで7 日間 24 時間毎、その後90 日間は84時間毎に経口投与したところ、最初は臨床症状とウイルスの排出が抑制されましたが、9ヵ月後に病状が再発しました〔Richter et al.2012〕。C.serpentisに感染した34頭のインドヘビ (Drymarchon couperi) に360mg/kgで週2回、6週間経口投与しても効果はありませんでした〔Bogan Jr. JE et al.2011〕。C.varaniiに感染したフトアゴヒゲトカゲに100mg/kgのパロモマイシンを24時間毎7日間、その後6週間は週2回、最後の10日間は360mg/kgを48 時間毎に経口投与し、糞便学的検査でも組織病理学的検査でもクリプトスポリジウムは検出されず、駆虫が成功しました〔Grosset et al.2011〕。ヒョウモントカゲモドキのコロニーでは50~800mg/kgを24時間毎に経口投与し、臨床症状の改善が見られましたが、治療を中断したときに再発しました〔Coke et al.1998〕。4頭のヒョウモントカゲモドキに100mg/kgを24時間毎7日間、その後84時間毎に72日間に経口投与したところ、3頭のみが臨床症状の改善と糞便検査の陰性所見が得られた〔Pantchev et al.2008〕。2頭のアメリカドクトカゲに、300~360mg/kgで週に2回6週間経口投与し、糞便からのPCR検査は陰性になり、その後3週、6ヵ月、12カ月、18カ月の検査でも陰性でした〔Paré et al.1997〕。なお、ヘビでは過免疫ウシ初乳(HBC)によが実験的投与が行われています〔Graczyk et al.1998〕。しかし、クリプトスポリジウムは伝染性が非常に高い上に、発病には免疫不全も関与することから、生体の基礎疾患や免疫も治療に過大な影響を与えることが予想されます。
消毒
確実な駆虫薬がないため、予防がとても大切になります。クリプトスポリジウムに対してアンモニウム溶液や過酸化水素などの消毒剤が使われていますが〔Díaz et al.2013,Fayer et al.2008,Pasmans et al.2008〕、各消毒薬に抵抗性もあり、消毒が完全に効くとは限りません。しかし、熱湯消毒と乾燥に弱いので、爬虫類の糞の掃除は頻回に行って下さい。水での感染が強いのでケージなどは熱湯消毒の後によく乾燥させることがポイントです。基本的に爬虫類に寄生するクリプトスポリジウムは、人に感染することはないようですが、HIVなどの免疫不全症などの患者からは爬虫類に寄生するクリプトスポリジウムが見つかっている例もありますので油断ができません。新しい爬虫類を購入した際は、今までいた爬虫類に感染する恐れがあります。接触させる前にクリプトスポリジウムが寄生しているか、遺伝子(PCR)検査をすることも必要かもしれません。
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