【解剖】ヤモリのカルシウムサック

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カルシウム貯蔵

ヤモリの一部の種類では、カルシウムサック(Calcium sac)と呼ばれる、液体の炭酸カルシウムを貯蔵する1 対の嚢を備えています。この嚢は首の下部や頭蓋内に位置する内リンパ嚢(※)で、メスが固い卵殻を産むことに関与しています〔Gardner 1985〕。繁殖期になるとカルシムが蓄積されて、卵殻形成のために使用されるといわれています〔Lamb et al.2017〕。

※内リンパ嚢

内リンパとは内耳の中を満たす液体の一つで、内耳の恒常性維持において重要な働きを担っています。この内リンパが含まれている空隙を内リンパ腔と呼ばれ、内リンパ腔と連絡している小さな袋状の嚢が内リンパ嚢になります〔中井ら1984〕。人では難聴や耳鳴りなどのめまい発作を起こすメニエール病の原因として、内リンパ嚢が関与していることが知られています。内耳でつくられた内リンパが、最終的に内リンパ嚢で吸収されて、一定の量が保たれますが、何らかの原因で吸収が正常に行われず内リンパが増加して、症状が発現します(内リンパ水腫)。

X線で確認

カルシウムサックはX線で観察するとX線不透明構造物として確認されます。内リンパ嚢とは、内耳から始まる拡張した嚢で、形状も種類によって異なります。

役割

カルシウムサックはよく分かっておらず、メスの卵のカルシウム関連以外にも、オスを含めた孵化したての幼体にも見られ、骨格のを強化のために使用されるとも言われています〔Henkel et al.1995,Bauer 1989〕。そして、環境ストレスを受けることで、カルシウムの取り込みを妨げることも指摘され、健康状態の指標になるとも言われています〔Brown et al.1991〕。

一部のイモリにのみある

カルシムサックはヤモリの一部の種類(チビヤモリ科:Sphaerodactylinae,ヤモリ亜科:Gekkoninaeなど)、そしてアノール(アノールトカゲ科:Dactyloidae)とその近縁種 (ハガクレトカゲ属:Polychrusなど) に存在し、他のイグアナ科には存在しません〔Etheridge 1959,Bauer 1989〕。

参考文献

  • Bauer A.Extracranial Endolymphatic Sacs in Eurydactylodes (Reptilia : Gekkonidae),with Comments on Endolymphatic Function in Lizards.J Herpetol23:172-175.1989
  • Brown SG,Osborne LK,Pavao MA.Dominance behavior in asexual gecko,Lepidodactylus lugubris,and its possible relationship to calcium.International Journal of Comparative Psychology4(3):211‐220.1990
  • Etheridge R.The relationships of the anoles(Reptilia:Sauria:Iguanidae) an interpretation based on skeletal morphology.1959
  • Gardner AS.The calcium cycle of female day-geckos (Phelsuma)-shont note.HerpetolJ.1:37-39.1985
  • Henkel FW,Schmidt W eds.Amphibien und Reptilien Madagaskars der Maskarenen.Ulmer Eugen Verlag.1995
  • Lamb AD,Watkins-colwell GJ,Moore JA et al.Endolymphatic Sac Use and Reproductive Activity in the Lesser Antilles Endemic Gecko Gonatodes antillensis (Gekkota: Sphaerodactylidae). Bull Peabody Museum Nat Hist58:17-29.2017
  • 中井義明,山根英雄,桝谷治彦.内リンパ管および嚢の構造と機能.耳鼻咽喉科展望27(5):p543-548.1984

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。