【生理】カエルの抗菌ペプチド(汚い水の中でも元気な理由)

カエルの感染防御システム

カエルの生息環境は、水と陸圏にまたがっているため、体の外表面 (皮膚) からも全身的に微生物の感染を受け易い環境にいます。しかし、多くの個体では問題なく、健康でいられますが、その理由は微生物に対する防御機構である抗菌ペプチドを皮膚から分泌しているからです。カエルの皮膚は哺乳類のような被毛や鱗といった物理的な防御を持たないため、自らの皮膚の粘液腺からペプチドを含む粘液を分泌させ、化学的な生体防御システムを発達させています〔Ladram et al.2016, 岩室 2017〕。カエルの皮膚の切開手術をした後に再び水に戻しても、感染を起こさないのも、この抗菌ペプチドのおかげです。同一の個体から、それぞれ特性の異なる複数種類の抗菌ペプチドが発見されています〔茂里 2014〕。

ペプチドを備えた理由

抗菌ペプチドは広い範囲の微生物に作用し、これが、ピンポイントで効く抗生物質と大きく異なる点です。両生類は体内の免疫系が弱いために、微生物が侵入する前に防ぐようなシステムを備えました。細菌や真菌だけでなく、ウイルスにも作用するのが特徴です。オタマジャクシから変態して、カエルになると抗菌ペプチドは分泌するようになり、甲状腺ホルモンが深く関与しています〔岩室 2017〕。

抗菌ペプチドの作用

抗菌ペプチドはバネのようならせん状構造で、プラスの電荷を帯びています。微生物の細胞膜はマイナスに荷電しているため、両者は引き合います。抗菌ペプチドは微生物の細胞膜膜を突き抜け、穴を開けて死滅させます。甲状腺ホルモンの阻害作用をもつ有害な化学物質が、カエルの抗菌ペプチドの遺伝子発現を阻害し、ペプチドの効力も落ちるという報告も出ていますにで、環境破壊によって、カエルの絶滅も懸念されています〔茂里 2014〕。

両生類の抗菌ペプチドは、甲状腺ホルモンと深い関係を持っています。抗菌ペプチドは幼体であるオタマジャクシの間は作られず、変態を起こす甲状腺ホルモンによって成体のカエルになって、初めて作られます。農薬などの影響での存在下では抗菌ペプチドの効力が落ちるという報告も出ており、現在、両生類は世界的に減少の危機が伝えられていますが、環境汚染がカエルの微生物に対する抵抗性を弱めているのでしょう。しかし、細菌からの細胞外産物が、タンパク質分解によって抗菌ペプチドを阻害し、感染が成立するという説も出ています〔Pearson 1998,Simmaco et al.1998,Rollins-Smith et al.2002,2005,Woodhams et al. 2007〕。

参考文献

  • Ladram A,Nicolas P.Antimicrobial peptides from frog skin:Biodiversity and therapeutic promises.Front Biosci.Landmark ed21:1341‐1371.2016
  • Pearson MD.Motile Aeromonas septicaemia of farmed Rana spp.PhD thesis.University of Stirling,Stirling.1998
  • Rollins-Smith LA,Doersam JK,Longcore JE,Taylor SK,Shamblin JC,Carey C,Zasloff MA.Antimicrobial peptide defenses against pathogens associated with global amphibian declines.Dev Comp Immunol26:63-72.2002
  • Simmaco M,Mangoni ML,Boman A,Barra D,Boman HG.Experimental infection of Rana esculenta with Aeromonas hydrophila: a molecular mechanism for the control of the normal flora.Scand J Immunol48:357-363.1998
  • Woodhams DC,Ardipradja K,Alford RA,Marantelli G,Reinert LK.Rollins-Smith LA.Resistance to chytridiomycosis varies among amphibian species and is correlated with skin peptide defenses.Anim Conserv10:409-417.2007
  • 岩室祥一.両生類の抗菌ペプチドとその多機能性、抗菌ペプチドの機能解明と技術利用.長岡功監修.第I編 第2章:p15–27.シーエムシー出版.2017
  • 茂里康.カエルに学ぶ抗菌力.生物工学会誌12:679.201

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。