カエルのラナウイルス感染症~両生類の新興感染症

両生類がやばい

地球上に生息する両生類において、100種以上が1980年以降に絶滅したと推測され、現存する約6000種の32%の種類が絶滅の恐れがあるといわれています〔Stuart et al.2004〕。減少や絶滅を引き起こしている要因として、過度の採集や生息環境の悪化等が指摘されていますが、その一方で、カエルツボカビ症ラナウイルス感染症などの新興感染症が注目され、世界レベルで監視が必要とされています。北米では、2006年 野生個体の死因鑑定で 110 例の両生類で、43%がラナウイルス、16%がカエルツボカビで、国際獣疫事務局(OIE Office International des Epizooties )では発生を報告を義務付ける感染症に指定し、2008年に注意を呼びかけています。なお、どちらも人に感染することはありません。

ラナウイルス

ラナウイルスはイリドウイルス科に属し、宿主域は広く、両生類のみならず、魚類や爬虫類にも感染します。以下の 5 属以外に、未分類のウイルス群があり、節足動物などの無脊椎動物 (昆虫と軟体動物)、魚類、両生類、爬虫類から分離されます。ラナウイルス (Ranavirus) は名前からわかるようにアカガエルの仲間 (Rana 属) に被害がでたために命名されました。

表:イリドウイルスの種類と宿主

イリドウイルス科宿主
イリドウイルス (Iridovirus) 属昆虫
クロルイリドウイルス (Chloriridovirus) 属昆虫
ラナウイルス (Ranavirus) 属爬虫類、両生類、魚類
リンホシスチス (Lymphocystivirus) 属魚類

イリドウイルスはリンホシスチスとメガロサイチ属のウイルスが魚類に感染して大きな被害を及ぼしています。オーストラリアの流行性造血器壊死症ウイルス(Epizootic Hematopoietic Necrosis virus: EHNV)〔Reddacliff et al.1996〕や北米のオオクチバスウイルス(Largemouth bass virus : LMBV)がよく研究され、日本では、海水魚のマダイイリドウイルス病が、マダイなどの養殖魚で流行しました〔Nakajima  et al.2005〕。ラナウイルス属のウイルスは、魚類、両生類および爬虫類に感染する。両生類に病原性を示すイリドウイルスとして、ラナウイルス属および未分類イリドウイルス属(frog erythrocytic iridoviruses)のウイルスが懸念されています。ラナウイルスは多数の種類が知られ、有名なのは Frog Virus 3 (FV-3)〔Miller et al.2007〕、オタマジャクシ浮腫病 (TEV) 1、Ambystoma tigrium (トラフサンショウウオ) virus 〔Jancovich et al.1997〕、Bohle (ボーレ) iridovirus(BIV)Rana esculenta iridovirusなどです。幼体(オタマジャクシ)~成体までが感受性を有し、特に変態途中や変態直後の幼体の感受性が高く、しばしば幼体の大量死の事例が報告されています。このうち、FV-3による多くのカエル (アカガエル属) とヒキガエルに高病原性を示し、死亡率を高めています。また、FV-3 と TEV間には、ウイルス学的に密接な関係があり〔Hyatt et al.2000〕、ともに幼体での被害が大きく、同じ症状を示します〔Wolf et al.1969〕。北米全土で、FV-3 と TEV に類似するラナウイルスによるオタマジャクシを含む幼体の大量死が報告されており、致死率が 90%を超えています〔Green 2001,Green et al.2002〕。野生個体だけでなく、飼育個体でも流行が確認されています。

感染

感染は接触による直接感染、共食いや汚染された水などを介した水平感染によって伝播されています〔Wolf et al.1969〕。

発生状況・症状

ラナウイルスは、特にオタマジャクシと変態時期が最も感染しやすく、成体と比べて3倍以上感受性が高いとされています。流行とその影響には季節性があり、暖かい季節(高水温下)では流行が起きやすく、病状の進行も早いです。感染は両生類全体に見られ、カエル以外にもタイガーサラマンダーやスポッテッドサラマンダーのような有尾類に至ります。症状は、突然死から明瞭な症状を示さないものまで様々です。甚急性では全身性出血性病変を主徴とし、オタマジャクシや変態個体では運動性の低下が見られ、慢性経過をたどると皮膚潰瘍、四肢・尾の壊死、全身水腫、胸腹水などが見られます〔Docherty et al. 2003,Wolf et al.1969,Johnson et al.2005〕。実験による急性感染症では、接種後 2日~ 2 週間で発症しました〔Wolf et al.1969〕。また、ウイルスの種類や株、宿主の種類と年齢などによって病変が異なります。

爬虫類への感染

BIV は両生類のみならず、爬虫類 (淡水のカメ、ヘビ) および魚類(淡水魚)に感染します。

診断

組織からのウイルス分離やPCR 検査、電子顕微鏡学的検査が行われています。

治療・消毒

有効的な治療法はありません。Johnson ら(2005)は、両生類の皮膚からの分泌物がラナウイルスに防御的に働くと仮定して、アシクロビル(Zovirax)の服用が、臨床使用において応用できるかもしれないと示唆しています 〔Johnson et al. 2005.〕。ラナウイルスは抵抗性が強く、乾燥した状態だと長期間生存します。また、4 ℃の水中では比較的長期間安定しています。魚類のイリドウイルス症に関しては、すでに不活化ワクチンが開発されていて、マダイ、ブリ属魚類に筋肉内あるいは腹腔内接種で予防接種されていますが、両生類のラナウイルスのワクチンは開発されていません。

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パンデミックな影響

ラナウイルス症は、世界各地で野生の両生類に流行しています 〔Daszak et al.1999,Densmore et al.2007〕。1985~1991年の間にヨーロッパで年間数万匹のペースというスピードでヨーロッパアカガエルが減少したことが問題になりました。イギリスでの調査では、ウイルスは種特異性が低く、ヨーロッパヒキガエルやイギリスに生息する全てのイモリにも感染するといわれています〔Cunningham et al.1996〕。1998年には、北アメリカの3州でタイガーサラマンダーの大量死が公表され、 1983年より毎年幼体ばかりの 5,000~27,000頭が被害を受けています〔Bollinger et al. 1999.〕。

日本初の報告

2008年にウシガエル幼体の大量死として、西日本の1箇所の池で、1日数千匹の単位で発見されました〔Une et al.2009〕 。今回、ラナウイルス感染症が流行した池では、例年、野生のウシガエルが産卵していたが、未だかつてこのような大量死は確認されていない。なぜ、2008 年に突然流行が起きたのかはわからず、また、今回分離されたウイルスの由来も不明なままです。

最後

今後、さらなる疫学調査が欠かせない。一方で、本ウイルスが日本土着(固有)のラナウイルスの可能性もあるため、ウシガエルのみならず、在来種を含めた両生類におけるラナウイルスの感染状況を明らかにする必要があります。

参考文献

  • Bollinger TK,Mao JH Schock D,Righam RM,Chinchar VG.Pathology,isolation,and preliminary molecular characterization of a novel iridovirus from tiger salamanders in Saskatchewan.J Wildl Dis35:413-429.1999
  • Cunningham AA et al. Pathological and microbiological findings from incidents of unusual mortality of the common frog (Rana temporaria).Philosophical Transactions of the Royal Society of London-Biological Sciences351:1539-1557.1996
  • Daszak P,Berger L,Cunningham AA,Hyatt AD,Green DE,Speare R.Emerging infectious diseases and amphibian population declines. Emerg Infect Dis5:735-748.1999
  • Densmore CL,Green DE.Diseases of amphibians.Ins Lab Ani Res J48:235-254.2007
  • Docherty DE,Meteyer CU,Wang J,Mao J,Case ST,Chinchar VG.Diagnostic and molecular evaluation of three iridovirus-associated salamander mortality events.J Wildl Dis39:556-566.2003
  • Green DE.Pathology of amphibian. In: Amphibian Medicine and Captive Husbandry.Wright KM,Whitaker BR eds.Krieger Publishing Company.Malabar FL:p401-485.2001
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  • Johnson AJ,Wellehan JF.Amphibian virology.Vet Clin Exot Anim Pract8:53-65.2005
  • Miller DL,Rajeev S,Gray MJ,Baldwin CA.Frog virus 3 infection,cultured American bullfrogs. Emerg Infect Dis. 13: 342-343. 2007.
  • Nakajima K,Kurita J.Red sea bream iridoviral disease.Virus55:115-126.2005
  • Reddacliff LA,Whittington RJ.Pathology of epizootic haematopoietic necrosis virus (EHNV) infection in rainbow trout (Oncorhynchus mykiss Walbaum) and redfin perch (Perca fluviatilis L.). J Comp Path115:103-115.1996
  • Stuart SN et al.Status and trends of amphibian declines and extinctions worldwide.Scinece3:306 (5702):1783-1786.2004
  • Une Y, Sakuma A, Matsueda H, Nakai K, Murakami M. Ranavirus outbreak in North American bullfrogs (Rana catesbeiana), Japan, 2008. Emerg Infect Dis. 15: 1146-1147. 2009.
  • Wolf K, Bullock GL, Dunbar CE, Quimby MC. Tadpole edema virus: Pathogenesis and growth studies and additional sites of virus infected bullfrog tadpoles. In: Recent Results in Cancer Research Special Supplement, Biology of Amphibian Tumors. Mizell MR ed. Springer-Verlag. New York: p327-336.1969

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。