【解剖】トカゲの尾の自切

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尾をちぎって逃げる

一部のトカゲでは尾を自ら切断することができ、自切と呼ばれれています〔Bellairs et al.1985〕。天敵に捕まえられると、尾をちぎって逃亡する防衛手段です。切れた尾はしばらくの間はくねくねと動き、これは筋肉の嫌気性代謝によるもので、最大 30 分間小刻みに揺れ続けることができます。捕食者の注意を引きつけている間にトカゲは逃走します〔Higham et al.2010 〕 。そのため、尾椎には自切面(脱離節)と呼ばれる節目が切れやすい箇所があり、自切しやすい構造になっています〔Fukuda et al.1967〕。自切面で切断が起こると、筋肉が収縮して出血も最小限に抑えられ、そこから時間をかけて尾が再生します(再生尾)〔佐藤ら2015〕。しかし、全てのトカゲが自切を行うわけではなく、イグアナ、トカゲモドキ、デグートカゲ、カナヘビ、ヤモリ、アノールなどは自切をしますがが、カメレオン、アガマ、ドクトカゲ、モニターなどは自切しません。なお、一部のトカゲでは物理的な刺激なしで尾を自動的に切除することができます〔Bellairs et al.1985,Elwood, et al.2012〕。

自切解剖生理

尾椎の腹側に血液とリンパ管が見られます。尾椎動脈は椎骨に近いところを走行し、尾椎静脈は動脈の腹側に位置し、動脈と静脈の両側に1対の大きなリンパ管があります〔lepen et al.1995〕。尾椎には予め形成された骨折線(離脱面)があり、この部分が離開することで自切します。

自切は複雑な防御メカニズムで、尾を掴んだり、捕食者につかまったり、何らかの方法で挟まれたりすると、尾の筋肉群の収縮によって離脱面に負荷がかかり、尾椎が離断します。 離断は通常、トカゲがつかまれた部分の直前、またはこれより前の3つ以下の椎骨で発生します。

周囲の筋肉群は瞬時に分離するように配置され、 尾骨動脈も破断点で収縮するため出血は最小限で収まり、周囲の筋肉の収縮によっても止血されます〔Arnold 1984〕。

再生尾

再生尾の外観は元の尾にほぼ類似して生えてきます。しかし、尾の再生時にはトカゲにとって、かなりのエネルギーを必要としますので〔Ballinger et al.1979〕、十分な餌を与えるようにしましょう。なお、トカゲの種類によって再生尾の構造に違いが見られます。

イグアナの再生尾

切断面から黒褐色の組織が増生してきます。しかし、皮膚および鱗も再生されますが、元の鱗と比べて小さく、灰色や薄茶帯びた暗色になり、模様も見られません。最終的には元の尾よりも長さが短くなることが多いです。

 離脱面からが椎骨は再生されませんが、代わりに軟骨の茎が生成され、それが元の尾と同じ長さに近くまで伸長します(軟骨幹)。記録された尾の再生速度は、種類によってかなり異なり、1日あたり0.2~2mmの範囲です〔Arnold 1984,Hughes et al.1959,Jamison 1964〕。しかし、アシナシトカゲの一部の種類では、再生にはかなりの時間を要し、11ヵ月で4.1 mmしか再生しません〔Miller et al.1944〕。尾の再生は種類はもちろん、栄養状態、成長期や繁殖期などの時期にも影響を受けます〔Vitt et al.1977〕。ヤモリでは尾の再生を優先した場合、身体の成長は遅くなり、生体の繁殖を優先した場合は、尾の再生は遅くなります〔Dial et al.1981〕。

周囲の筋肉は均質な層あるいは元の構造を模倣して軟骨茎の周りに放射状に広がりながら再生されます。 動脈と静脈も新しい組織とともに成長します。一部のトカゲでは、軟骨幹の中央に椎管の模倣として、結合組織と血管が詰まっていることがあり、 脊髄からの神経組織の成長の兆候も付随的に観察されています〔Zwart et al.2006〕。元の尾と再生尾の間に構造および機能上の違いがあるため、特に再生尾は、調整された細かい動きがあまりできないと予測されています〔Fisher et al.2012〕。再生尾の軟骨管には離断面がないため自動することはできず、再自切の際には毎回基部に近い尾椎で行われ〔Bellairs et al.1985,Elwood et al.2012〕、繰り返し尾の切断を経験するトカゲは、尾の付け根に近づくにつれて尾を徐々に短くなります〔Chapple et al.2004〕。

ヒョウモントカゲモドキの再生尾

ヒョウモントカゲモドキの再生尾は軟骨が生えていません。肉色の組織が増生して、薄皮を冠った尾が再生し、時間の経過とともに鱗と体色が見られます。

ヒョウモントカゲモドキではX線では軟骨が見えませんが、CTでは硬い構造物が尾の中心部に走行しているのが分かります。

尾が短くなると

尾の自切は捕食者の攻撃から逃れるための戦略ですが、この再生尾では以前の尾の時とは完全に同じ行動ができるとはいえません。特に再生尾が完全に生えていない時あるいは不完全な再生尾であると、 歩行機能の低下〔Brown 1995〕、交尾の失敗〔Langkilde et al.2005〕、そして尾に脂肪を蓄積するようなヤモリでは枯渇問題が考えらえています。自切の歩行への影響はカナヘビで研究され、尾が自切すると上手く歩けませんが、再生尾が生えると樹上性において元のように動くことができるようになったという報告があります〔Brown 1995〕。尾の脂肪の蓄積の大半は近位部に存在しますので、脂肪の枯渇は最小限の可能性が高いです〔Chappie et al.2002〕。

犬猫と同じ断尾手術は禁忌

犬や猫で行うような断尾手術は椎骨間の切断(椎間板切除術)ですが、このよう方法を爬虫類で行うと離断面を失うために尾は適切な再生されず、尾が小さかったり、複数の尾が生えることもあります。

時には全く生えないこともあります。

イグアナ

ポイントはコレ!

・トカゲは危険を防衛手段として尾を自切して逃走する
・自切して生えてきた尾を再生尾という
・自切して尾が再生するのはイグアナとヒョウモントカゲモドキ
・フトアゴやカメレオンは自切しない

参考文献

  • Arnold EN.Evolutionary Aspects of Tail Shedding in Lizards and Their Relatives. Journal of Natural History18:127-16.1984
  • Bellairs AdA,Bryant SV.Autotomy and regeneration in reptiles.Gans C,Billett F eds.New York:John Wiley and Sons:310-401.1985
  • Brown RM.Effect of caudal autotomy on locomotor performance of walt lizards (Podarcis muralis).Journal of Herpetology 29(1):98-105.1995
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  • 佐藤瑞生,小池啓.ニホンカナヘビの自切の組織学的観察.群馬大学教育学部紀要自然科学編63.27-33.2015

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。