カエルのペルビックパッチ(お腹の皮膚から水を飲む)

両生類の皮膚吸水システム

両生類の浸透圧調節は、皮膚、泌尿器およびリンパ系が関与しており、他の脊椎動物と比較して、皮膚が浸透圧調節において積極的な役割を果たしているのが特殊です。両生類は口から飲水をせずに、水分は薄い皮膚から容易に吸収されます。カエルの多くの半水生および陸生種は、体内への水の拡散を促進するために、後肢腹側~体後部腹側の皮膚領域に血管分布が増加した特殊な、ペルビックパッチ(Pelvic patch)あるいはドリンクパッチ(Drink patch)と呼ばれる領域を備え、水分を積極的に吸収し、ナトリウムと塩化物のバランスを担っています。

カエルは水中から乾燥した陸上に生活の場を移して進化をし、経口的な水分摂取を行わずに腹部の皮膚からのみ水分を吸収します。つまり喉が渇いて水を飲むという行動が発現 していない状態で、陸上の乾燥環境に適応した結果です〔Jørgensen 1997〕。陸上で生活するために、カエルの皮膚は水分の蒸発を防ぐために粘液も分泌し、共に水分の摂取を行わなければならない機能も備えるようになったのです〔Hoff et al.1993〕。

脱水していると数倍の水を飲む

腹部の皮膚での水分摂取は、樹上で生活 している非繁殖期には通常30μL/cm2/100分ほどですが、カエルを数日間水分を摂取できない乾燥環境下にお くと、水分摂取能は5~7倍に上昇します〔上島 1998〕。この水分摂取は、交感神経作動剤 (アドレナリンβ受容体刺激)や下垂体神経葉ホルモン(両生類の抗利尿ホルモンであるアルギニンバソトシン)の分泌によって活性化されています〔Kamishima et al.1995,Nakashima et al.1990〕。人は水維持は主として腎臓の集合管細胞に水チャネルであるアクアポリン(Aquaporin; AQP)と呼ばれる膜タンパク質が担っていますが、カエルでAQPが下腹部の皮膚(ペルビックパッチ)、膀胱と腎臓に存在し、カエルは膀胱に蓄えた尿から水分を再吸収するという機構も持ち〔Tanaka et al.2005〕、皮膚では分泌腺である粘液腺と顆粒腺に特異的に発現するAQPが関与して水分吸収を行います〔Hillyard et al.2011〕。カエルは哺乳類と異なり腎臓の腎髄質対向流系が欠如しているので,腎臓での尿の濃縮ができない特徴のために、このような水分吸収作用を備えたと思われます〔Bentley 2002〕。ペルビックパッチの領域や機能はカエルの種類いわゆる棲息環境によっても異なります。皮膚の水透過性やAVTに対する応答の違いは、それぞれのカエル皮膚に発現するAQPに由来します〔佐藤ら 2013〕。

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参考文献

  • Bentley PJ.Endocrines and Osmoregulation.A Comparative Account in Vertebrates.In The Amphibia.Bentley P eds.Springer.New York:155-186.2002
  • Hoff KVS,Hillyard SD.Angiotensin II Stimulates Cutaneous Drinking in the Toad Bufo punctatus.Physiol Zool66:89-98.1993
  • Jørgensen CB.200 years of amphibian water economy:from Robert Townson to the present.Biol Rev72:153-237.1997
  • Hillyard SD,Willumsen NJ.Chemosensory function of amphibian skin: integrating epithelial transport,capillary blood flow and behaviour.Acta Physiol202:533-554.2011
  • Kamishima Y,Mori T.Dual water absorption systems in ventral skin of Japanese treefrog (Hyla japonica). proc4.internat.Congr of Comp.Physiol.Biochem.1995
  • Nakashima H,Kamishina Y.Regulation of water per meability of the skin of the treefrog,Hyla arborea japonica.Zoo Sci7:371-376.1990
  • Tanaka S,Hasegawa T,Tanii H,Suzuki M.Immunocytochemical and phylogenetic distribution of aquaporins in the frog ventral skin and urinary bladder.Ann NY Acad Sci1040:483-485.2005
  • 上島孝.両生類の経度的水分摂取機構と陸上適応.岡山実験動物研究会:8-10.1999
  • 佐藤恵,酒井秀嗣.無尾両生類の水調節機構.日本大学歯学部紀要41:97-101.2013.

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。