◎ウサギのおやつの選び方と避けるべき食べ物

おやつの選び方

ウサギの生理学を踏まえると、「おやつ」は単なる嗜好品ではなく、主食を補完する機能的な役割を持つべきです。

おやつの基本原則:主食(牧草)を補完するものとして

ウサギの食餌全体において、おやつが占める割合はごく少量に留めるべきです。推奨されるガイドラインでは、おやつは日々の総摂取カロリーの5%以下に抑えることが推奨されています。  「おやつ」という言葉は、一般的に甘く、特別で、カロリーの高い食品を連想させがちですが、学術的な知見はこれとは異なるアプローチを強く推奨しています。多くの研究や獣医ガイドラインは、高糖質、高脂肪、高デンプン食品を避けるよう強く勧告しています 。この科学的見解に基づき、飼い主は「おやつ」という概念を、嗜好性を満たしつつ、主食の牧草では補いきれないビタミン、ミネラル、水分、そして味覚的な多様性を提供する「健康的補助食」へと再構築する必要があります。

栄養価を考慮した野菜・野草のおやつ

おやつとして最も適しているのは、主食の牧草に栄養的にも性質的にも近い、繊維質を多く含む葉物野菜や野草です。毎日、少なくとも5〜6種類の異なる葉物野菜を、よく洗って与えることが理想的です 。 推奨される食品には、ロメインレタス、ケール、パセリ、タンポポの葉、ブロッコリーの葉、エンダイブ、チコリ、ルッコラなどがあります 。これらの野菜や野草には、単なる栄養素だけでなく、ウサギの健康に寄与する特定の効用が報告されているものもあります。例えば、タンポポの投与は、抗炎症作用や肝機能促進作用を持つ可能性が示唆されています 。また、タイムやオレガノといったハーブ類は、食欲増進効果や、腸内細菌叢を安定させる効果が報告されています。 ただし、注意点として、ケール、ほうれん草、マスタードグリーンなどはシュウ酸やカルシウムを多く含むため、与えすぎると尿路結石などの問題を引き起こす可能性があります 。これらの野菜は、単一ではなく、他の種類の野菜と組み合わせて少量を与えるべきです 。  

果物や根菜のおやつ

ニンジン、リンゴ、バナナといった果物や根菜は、ウサギが好むため、おやつとして非常に人気があります。しかし、これらは糖分が非常に高いため、過剰な摂取は肥満や消化器系の不調を引き起こすことが懸念されます 。 これらを安全に与えるためには、量と頻度の厳格な管理が不可欠です。推奨される量は、1日あたり体重1kgあたり小さじ1杯程度 、または2.5cm角に切ったものを2〜3個といったごく少量に留めるべきです 。また、リンゴやナシ、サクランボ、モモといった果物の種や芯、茎には微量のシアン化物が含まれるため、必ず取り除く必要があります 。  

種類推奨される例科学的根拠
葉物野菜ロメインレタス、チコリ、エンダイブ、ブロッコリーの葉、ルッコラ多くのビタミン・ミネラルを供給し、水分補給にも寄与する。
ハーブパセリ、ミント、バジル、タイム、コリアンダー、ディル食欲増進効果や腸内細菌叢の安定化効果が報告されている。
野草タンポポの葉、ノコギリソウ、クローバー豊富な栄養素に加え、特定の健康促進作用(抗炎症、肝機能)を持つ可能性がある。
根菜/果物ニンジン、ピーマン、リンゴ、バナナ、イチゴ少量であれば嗜好性を満たし、訓練のご褒美としても活用できる。
表:推奨されるウサギのおやつ

与えてはいけないおやつとその科学的理由

ウサギの健康を危険にさらす可能性のある食品や植物は多岐にわたります。その有害性を理解することは、事故を未然に防ぐ上で極めて重要です。

有毒な植物とその成分

庭や室内にある無害に見える植物が、ウサギにとっては有毒である場合があります。その毒性は、胃腸障害、心臓病、神経症状、そして死に至るまで様々です。 主要な有毒植物として、イチイ(yew)やドクゼリ(hemlock)のような明らかな致死性を持つ植物の他に、より身近な植物にも注意が必要です。ナス科の植物(ジャガイモの芽や皮、トマトの葉や茎など)には、毒性成分であるソラニンなどが含まれており、ウサギにとって有毒です 。ただし、トマトの果実自体は無毒とされています 。また、アジサイ、ユリ科植物、キク、ツタ、スズランなどもウサギにとって有毒です 。飼い主は、与えるものを「安全リスト」に照らし合わせるだけでなく、飼育環境にある全ての植物がウサギにとって安全であることを確認する責任があります。安易な放し飼いは、予期せぬ中毒事故につながる可能性があります。  

健康リスクのある食品(人間の食べ物や市販のおやつ)

人間の食べ物や、ウサギ用として市販されている一部の加工食品には、ウサギの健康に有害なものが多く含まれています。

  • 高脂肪・高糖質食品:
    • チョコレート: テオブロミンとカフェインを含み、ウサギにとって非常に強い毒性を持つため、絶対に与えてはいけません 。  
    • アボカド: ペルシンという化合物を含み、心不全を引き起こす可能性があります 。  
    • 乳製品・ヨーグルトドロップ: ウサギは乳糖を効率的に消化できないため、消化不良や腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)を招きます 。  
  • 穀類・デンプン質食品:
    • パン、ごはん、パスタ、シリアルなど: これらの食品は、消化管で過剰に発酵し、下痢や消化器系うっ滞のリスクを高めます 。  
    • 豆類(生のマメなど): 炭水化物やデンプンが多く、消化器系を乱す可能性があります 。  
  • 市販の加工おやつ:
    • 市販されている「おやつ」の中には、シードミックス、ヨーグルトドロップ、着色された「おやつ」など、高脂肪・高糖質でウサギの健康に有害なものが多く存在します 。これらの製品は、ウサギの食餌の基本原則から大きく逸脱しています。  
    • さらに、牧草以外の原材料(トウモロコシなど)を使用した飼料やスナックは、不適切な保管条件下でカビ毒(マイコトキシン)に汚染されている可能性があります。マイコトキシンは肝臓に損傷を与えたり、免疫抑制を引き起こしたりすることがあり、その影響はしばしば不顕性(sub-clinical)で、症状が顕在化した時にはすでに深刻なダメージが進行している場合があります 。  
種類推奨される例関連リスク
有毒植物ヤドリギ、イチイ、スズラン、ツタ、ユリ、ナス科植物(葉・茎)胃腸障害、心臓病、神経症状、致死性中毒
高脂肪/高糖質食品チョコレート、アボカド、乳製品、ヨーグルトドロップ中毒、心不全、消化不良、肥満、腸内細菌叢の乱れ
穀類/デンプン質パン、ごはん、パスタ、シリアル、生の豆類消化器系うっ滞、下痢、異常発酵
不健康な市販品シードミックス、着色されたおやつ、ヨーグルトドロップ消化不良、肥満、栄養バランスの崩壊、マイコトキシン汚染
表:ウサギに与えてはいけない餌

実践的なおやつの与え方と注意点

おやつの実践

実際の生活の中でウサギにおやつを与えるケースは以下の通りです。しつけ、健康維持、コミニケーション、食欲増進、投薬になります。

しつけ

トイレ、爪切りや健康診断などはウサギにとっては嫌なことなので、きちんと出来た後はご褒美としておやつを与えましょう。ご褒美がもらえるということを覚えれば、次から従順にしてくれるウサギもいます。

健康維持

体調に応じておやつの種類を選び、サプリメントとして与えましょう。しかし、分量もしっかり守ってください。

コミュニケーション

ウサギと信頼関係を築くために、コミュニケーションをとる目的でおやつを与えましょう。部屋んぽの際に手から食べるようになればウサギから信頼されている証拠で、ゆっくり時間をかけて馴れさせていきます。また、名前をウサギ自身に覚えてもらえるように、名前を呼びながらおやつをあげると効果的です。

食欲増進

食欲がない時などに、おやつを与えると食欲を増す効果もあります。

投薬

治療でウサギに投薬をする際に、おやつに薬剤を混ぜて与えることがあります。

しかし、甘いものは肥満の原因になり、牧草を食べなくなることもあり、とにかくおやつをおねだりするウサギもいますので、与え過ぎは禁物です。ウサギにおやつを与える時も、量を制限したり、ルールを決めましょう。

新しいおやつの導入方法

ウサギの消化器系は非常に敏感であるため、新しい食べ物を急に大量に与えることは避けるべきです。新しいおやつを導入する際は、ごく少量から、時間をかけて段階的に行うことが不可欠です 。導入後、数日間は糞便の状態(軟便や下痢)や食欲の変化を注意深く観察し、問題が見られた場合はその食品の投与を中止します 。  

適切な量と頻度の管理

おやつは、総摂取カロリーの5%以下という原則を厳守することが重要です 。ウサギは甘い味が好きであるため 、同じおやつばかりを与えると偏食につながることがあります。このため、毎日数種類の異なる野菜や野草をローテーションで与えることが、栄養バランスの維持と飽きさせないための鍵となります 。  

 おやつの選び方

おやつは体によいもので、ウサギが好きで食べてくれるものが理想ですが、なかなかそんな条件を満たすものはありません。ウサギのおやつの多くは、牧草などの植物成分をはじめ、様々な材料を配合させたトリーツタイプ、野菜や植物の葉、果物などを乾燥させたでドライチップスタイプ、様々な成分を配合させた練り状タイプなどがあります。

トリーツタイプ

ウサギが自ら食べるように甘い成分を入れてある商品が多く、ウサギは自ら喜んで食べてくれます。ウサギが食べやすいような形状で作られており、スティック状やプレート状など様々な形の商品があります。ビタミンなどのサプリメントを配合させて、機能性トリーツとして人気があります。

マルカン minimal LAND あまえん棒 ベジタブルビスケット 130g

コミュニケーションおやつ!緑黄色野菜をたっぷり使った、ウサギが喜ぶビスケットで、人の手からポッキーみたく食べてくれます。

ハイペット つぶつぶ素材 大麦スティック 60g

カリカリとつぶつぶ!異なる食感のおいしさ。腸内細菌を活性化する水溶性食物繊維が豊富な大麦をプラス。

食感がよいドライチップス

薄く切って乾燥させた野菜がドライチップス、葉っぱがドライリーフと言います。栄養や風味をそのままにフリーズドライにしています。開封後は湿気るために、早めに食べきるようにしましょう。ドライリ―フは野菜だけでなく、タンポポ、オオバコ、ビワの葉などの野草も使われ、薬草的な効能が期待されています。ただし、ドライリーフは扱いによっては袋の中で粉々になっていることがあります。

近年は、オーツ、麦、とうもろこしなどを主とした穀物加工品オーブンで焼き、さらにドライチップスやフルーツなどが混ぜられたグラノーラも販売されています。

人参ドライチップステック

小さなサイズがちょうどいい!食物繊維もたっぷり、緑黄色野菜の王様ニンジンのスティック。

明日葉ドライチップ

天然素材をそのまま!国内で手摘みと無農薬にこだわって大切に育てられた、国産有機明日葉原料を使用しています。

野菜や豆のドライ

カリカリ仕上げ!トウモロコシやニンジン、じゃがいも、優しい甘みのイナゴ豆などを乾燥させて、栄養バランスよくミックスしました。

グラノーラ

毎日の食事をもっと彩り豊かに!ペレットに振りかけることで、自然のビタミンやミネラル・食物繊維などの栄養素をたっぷり摂取できるグラノーラです。砂糖などの糖類、食塩、保存料、着色料を使用せず、生きて腸まで届き、腸内フローラをケアする動物のための善玉菌(C-3102株)配合。

ドライフルーツ

乾燥させた果物かドライフルーツで、このタイプのおやつはウサギにとって最も好まれます。

乾燥パパイヤ

自然の恵みが楽しめる新鮮フルーツ!南国パパイヤを食べやすい大きさにカットして乾燥させました。天然食物繊維で健康なおなかの調子をサポート。

乾燥りんご

パリパリとした軽い食感! 手摘みされたりんごを丁寧にスライスし、ゆっくり乾燥させることで、りんごの香りとおいしさをそのままに仕上げました。手で割って与えて下さい。

マペット 健康野菜 無添加 青パパイヤ

95%のウサギが喜ぶ青パパイヤ!細切りした青パパイヤのドライチップスで、とにかく美味しくてほとんどのウサギが食べてくれます。パパイヤはビタミンCやポリフェノールが豊富で、タンパク分解酵素であるパパイン酵素も含まれ、こんなに健康に良いものがおやつとは、びっくりしました。

大人気の半練りタイプ

猫で大ブレークしたちゅ~るタイプのおやつも、近年多数販売されています。

マピューレ毛玉サポート

内容的にすごくない?チモシーをベースとしたピューレに、うさぎの大好きなりんごを加えました。パパイン酵素配合で、健康な毛玉の排出をサポートします。着色料、香料不使用。

これがポイント

・体に良いとはいえないが、食べる楽しみも必要
・ドライチップスとクッキータイプがある
・成分的に悪くないものをセレクト
・しつけやコミュニケーションにかかせない

JCRA(ジャクラ)って?ウサギ検定って?

ウサギを幸せに長生きさせたい方は、一般社団法人 日本コンパニオンラビット協会(JCRA:ジャクラ)へ入会しましょう。

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まとめ

おやつはウサギとのコミュニケーションになり、しつけにも使えます。しかし、ウサギの体に害を与えるような成分のおやつは避けなければなりません。おやつ一つにも配慮してあげて、ウサギを長生きさせましょう。

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。