マウス・ファンシーラットの飼育

マウス・ラットの飼育は簡単?

一般的にペットのネズミと呼ばれるのはマウスとラットのことです。マウスとラットはともに実験動物で活躍しているため間違われやすいのですが、体の大きさが異なり、マウスよりもラットの方が大きいです。食性や体の構造は同じですが、分類学的に別の動物で、性格も異なる点があります。日本ではマイナーですが、欧米ではペットとしても大変人気があります。

飼育

マウスはハムスターよりも体が小さく、同じような環境で飼うことはできますが、飼育用品も体にあった小さい物を選んであげましょう。ファンシーラットはマウスよりも体が大きいことから、ケージの大きさも体にあった物を選んであげましょう。

飼育頭数

マウスはオスは縄ばり意識が強いことから、多頭飼育すると喧嘩をします。しかしメス同士はあまりけんかをすることはありませんので、多頭飼育も可能です。ラットは群れで生活するため社交性が高く、多頭飼育することもできます。動物同士でのコミュニケーションをとることを好むために、単独飼育よりも多頭飼育を薦める考えもあります。

ラット

ケージ

マウス水槽ケージでも、跳躍力も優れているために、脱走しないように必ず蓋をします。はハムスター用のケージで飼育することができますが、体が小さいために幅の広い格子の金網ケージでは、脱走する恐れがありますので注意して下さい。

ファンシーラットは大きめの水槽や金網タイプのケージで飼います。フェレットやウサギ用ケージでも飼えますが、ラット用のケージも販売されています。なお、水槽で飼育すると体臭や尿臭がこもるので、天井は金網の商品がよいです。

ラットでは金属製の金網タイプのケージは臭いが軽減するので理想であるという考えが多いです。運動量も多く、ケージの中に階層を作ると、登ったり、降りたりするような行動を好みます。

ケージの中に床敷を敷いて、餌容器や給水器、小屋をレイアウトして設置します。マウスは尾を物に巻きつけて移動し、ケージの蓋まで届くことがあります。蓋をかじって逃走することもあるので、ケージ内のレイアウトは十分に考えて下さい。マウスやラットの推奨されるケージの大きさは実験動物で報告されていますが、この数値は最低値であり、この空間で十分な活動量を補えるかが問題でした。

マウス実験動物用ケージ

実験用マウス

実験動物用ケージラット

実験用ラット

表:実験用マウスのケージの大きさ〔実験動物の管理と使用に関する視診 2011〕

体重床面積 (cm2)高さ (cm)
10g未満38.712.7
10-15g51.6
16-25g77.4
25g以上>96.7

表: EU実験動物保護指令での実験用マウスのケージの大きさ〔EUの実験動物保護指令2010〕

体重床面積 (cm2)高さ (cm)
20g未満6012
20-50g70
25-30g80
30g以上100

表:実験用ラットのケージの大きさ〔実験動物の管理と使用に関する視診 2011〕

体重床面積 (cm2)高さ (cm)
100g未満109.6017.8
100-200g148.35
201-300g187.05
301-400g258
401-500g387
500g以上>451.5

表: EU実験動物保護指令での実験用ラットのケージの大きさ〔EUの実験動物保護指令2010〕

体重床面積 (cm2)高さ (cm)
200g未満20018
200-300g250
300-400g350
400-600g450
600g以上600

ケージの大きさを優先するだけでなく、小屋あるいはトンネルなどのシェルターなどを与えることは、運動量を増やし、そしてストレスを減らす効果もあります(環境エンリッチメント)。マウスやラットはケージの中のレイアウト次第で、ストレスを減らすこともできる上、学習能力も高まるという報告もあります〔Kobayashi et al.2002 〕

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マウスはマーキングでケージのあちこちで排泄するため、トイレを教えることは困難です。特にオスは尿臭がきつく、床敷の掃除も頻繁に行う必要があり、交換の手間やコストも考えて選びましょう。ラットは比較的トイレを覚えます。

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暗くて狭いところが大好きです。落ち着ける場所が必要なので、小屋は必ず用意しましょう。

マウス

温度・湿度・照明

温度

ケージを直射日光が当たる所や閉めきった部屋に置くと、熱中症になる可能性があり、部屋の温度を観察し、涼しい場所に置いて下さい。冬の寒い時は、保温器具で寒さを防ぐ工夫をし、夏は冷房や送風などで温度が上がりすぎないように注意しましょう(温度・湿度)

湿度

水槽ケージの中は湿気がこもりやすいために、風通しのよい所にケージをおきます。床敷は細菌が繁殖しやすいため、頻繁に掃除してあげましょう。特に夏はケージの中に熱がこもりやすくなり、暑くて水を飲む量が増えると、尿が多いマウスでは床敷が蒸れて温度や温度の管理が難しくなります(温度・湿度)。ファンシーラットは乾燥に弱く、尾の鱗状の皮膚にひび割れが起こります。これは野生種であるドブネズミは、名前の通りに下水などの湿った環境に適応していたからです。

表: マウスの温度・湿度〔実験動物施設基準研究会 1983〕

温度20-26℃
湿度40-70%

表: ラットの温度・湿度〔実験動物施設基準研究会 1983〕

温度20-26℃
湿度50-70%

照明

マウスやラットは夜行性で、日光浴をさせる必要はありません。

食事

基本的にマウス・ラットは雑食性で、専用ペレットを中心に、種子野菜などを与えます。ペレットのみのでも栄養学的には問題はありませが、食べる喜びを与えるために、他の食材もバランスよく組み合わせて与えます。

活動し始める夕方から夜の早い時間にかけて、エサを与えて下さい。ペレットや種子は常に餌容器に入れておき、しおれやすい野菜は時間を決めて新鮮なものを与えてください。果物やおやつなどはコミュニケーションの一環として、時々与える程度にとどめましょう。

実験動物のマウスやラットの栄養は見解が異なる文献が多い。マウスでは粗タンパク12.5~16.8%/粗脂肪5~8%〔木村 1996 〕、粗タンパク20~25%/粗脂肪5~12%〔Ritskes-Hoitinga 2012,Miedal et al.2015〕、ラットでは粗タンパク15%/粗脂肪5%〔NRC 1995〕、粗タンパク12~18%/粗脂肪5%〔Ritskes-Hoitinga. 2012, Miedal et al. 2015〕と相異があります。実験動物のマウス・ラット用ペレットとして、同じ成分が与えられているのが現状です。

飲水

マウスとラットはボトルタイプの給水器で飲水させます。マウスは比較的乾燥した地域に生息する動物のため大量の水は必要としないが、ラットはもともと水の多い土地を好む動物のため比較的多くの水を飲みます。そのため、特にラットの場合は常に十分量の水を給水器に補うようにして下さい。

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飲水

給水器は壁掛け式のボトルタイプと皿タイプがありますが、多くはボトルタイプで飲んでくれます。

表: マウスの採食量・飲水量〔Baumans 2010〕

採食量約15g/体重100g/日
飲水量約15mL/体重100g/日

表: ラットの採食量・飲水量〔Baumans 2010〕

採食量約10g体重100g/日
飲水量約15mL体重100g/日

ケア

マウスやラットが持つ本来の野性行動を発現できるような環境作りのために、ケージを広くする以外に、「登る」「(巣に)潜る」「(物を)かじる」という環境エンリッチメントを考えます。物をかじる習性には、かじり木を与えて対応します。なお、ファンシーラットは性格的にとても人に馴れますので、最初に好物の餌を手渡しで与えたり、手に馴れるように匂いをかがせ、手を恐がらないようにし、次第に腕にも乗ってくるようになっていきます。なお、マウスは人を認識しますが、スキンシップをとることはありません。爪が伸びすぎた場合は爪切りをします。

ラット

運動・登る

活発な動物ですが、最低の運動量は一概に定まっていません。よじ登れて潜れる小屋やトンネルを提供して下さい。小屋だとシュエルター的に潜って休息する場所ににもなります。回し車を好む場合は設置してよいですが、個体差があります。

ラット

 

ケージの外に放すと運動量をかせげるが、家具の隙間に入っての事故、電気コードや観葉植物をかじるような事故があるので、注意して下さい。

ラット

かじり木

物をかじることも習性の一つですので、かじり木になるようなものを置いてあげましょう。

コミュニケーション

ファンシーラットは人を認識して馴れますので、馴れると扱いが楽になります。しかし、マウスは残念ながら、人を認識する能力は乏しいです。

馴らすには最初に好物のエサを手渡しで与えて、手に馴れるように匂いをかがせます。手を恐がらないようになったら手の平に乗せて、体を優しく撫でて下さい。特に耳の後ろを撫でると喜びます。馴れたファンシーラットは人に寄ってきて、じゃれたり、膝や肩に乗ってきたりするようになります。

ラット

爪切り

爪が伸びすぎることがありますので、大人しい性格であれば爪切りをします。

これがポイント!

  • マウスは1頭ずつ、ラットは複数で飼育が理想
  • ストレスがたまらないように大きなケージで飼育する
  • 小屋とかじり木は必須
  • ラットは乾燥に弱い
  • オスのマウスは尿臭がきついので掃除をしっかりする
  • マウスはケージからの脱走に注意
  • ラットは人に馴れるので、遊ぶ時間を作る

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参考文献

  • Baumans V. The Laboratory mouse. In: The UFAW handbook on the care and management of laboratory and other research animals. Universities Federation for Animal Welfare. 8th ed. Hubrecht R, Kirkwood J. eds. Wiley-Blackwell. Oxford. UK. 2010.
  • John K. Animals in Person: Cultural Perspectives on Human-animal Intimacy. Berg Publishers. p131. 2005.
  • Konopka G, Roberts TF. Animal Models of Speech and Vocal Communication Deficits Associated With Psychiatric Disorders. Biol Psychiatry1. 79 (1). 53-61. 2016.
  • Ritskes-Hoitinga, Tobin, Jensen: Nutrition of the laboratory mouse. In: The Laboratory Mouse. Hedrich HJ eds. Academic Press. Waltham and San Diego. London. p567-599. 2012.
  • Kobayashi S, Ohashi Y, Ando S. Effects of enriched environments with different durations and starting times on learning capacity during aging in rats assessed by a refined procedure of the Hebb-Williams maze task. J Neurosci Res. 70. 340-346. 2002.
  • Miedal EL, Hankenson FC. Biology and Disease of Hamsters. In: Laboratory animal medicine. Academic Press. London, Waltham and San Diego. p209-245. 2015.
  • National Research Council (NRC). Nutrient Requirements of Laboratory Animals. National Academy Press. Washington, DC. 1995.
  • 石橋 正彦, 高橋 寿太郎, 菅原 七郎, 安田 泰久 編. 実験動物学. ラット. 講談社. 東京. p66. 1984.
  • 木村 透. 実験動物栄養監視技術. 実験動物技術大系. 日本実験動物技術者協会編. アドスリー. 東京. p593‐655. 1996.
  • 実験動物の管理と使用に関する視診 第8版. ㈳ 日本実験動物学会 監訳. アドスリー. 東京. p45-114. 2011.
  • 実験動物施設基準研究会 編. ガイドライン─実験動物施設の建築および施設. 清至書院. 東京. 1983.
  • 中村 博範, 金澤 健一郎, 松枝 秀二. マウスのタンパク質栄養状態と体毛タンパク質合成の関係について. 川崎医療福祉学会誌. 22 (2). 200-207. 2013.
  • DIRECTIVE 2010/63/EU OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 22 September 2010 on the protection of animals used for scientific purposes (科学的な目的のために使用される動物の保護に関する2010年9月22日の欧州議会及び理事会指令2010/63/EU(抄) (EUの実験動物保護指令)

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。