ハムスターの飼育

夜の地下生活

全てのハムスターは夜行性で、地下に巣穴を掘って生活をしています。飼育に関して、種類によって多少の違いがあります。

飼育

実験動物では実験動物用ケージと実験動物飼料という質素なスタイルで飼育されています。しかし、ペットでは様々なケージや餌の選択が可能で、ケージのレイアウトも好きなように組むことができるのも楽しみになっています。

飼育頭数

ゴールデンハムスターは2頭以上を同じゲージに入れると、けんかをすることが多く、別々のケージで飼うようにしましょう (単独飼育)。特にメスは気が強いため、注意して下さい。なわばり意識が強いので、ケンカをするだけで終わらず、相手を食い殺すこともあります。チャイニーズとドワーフハムスターは、野生でもつがいでいるので、同じゲージで飼っても大丈夫です (複数飼育)。しかし、相性が悪い場合は単独飼育をしないといけません。基本的には1頭ずつ飼育した方がよいでしょう。

ロボロフスキーハムスターは環境に敏感で、ハムスターを飼いなれていない人には扱いにくい種類です。鑑賞用のハムスターと考えて飼育するのがよいでしょう。また、野生では集団で生活をしているので、複数で飼うこともできますが、その場合は幼体から一緒に飼いはじめたほうがよいです。

ロボロフスキーハムスター

ケージ

ケージの中に床敷を敷いて、小屋、トイレ、餌容器や給水器などをレイアウトして設置します。

ハムスター飼育

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グッズ必要度
小屋
餌容器
給水器
トイレ
トンネル
かじり木
砂場
表: ケージの中に設置するグッズ

ケージは床面積が広いものを用意します。ゴールデンハムスターの推奨されるケージの大きさは実験動物で過去に数多く報告されてきました。しかし、この数値は最低値であり、この空間で十分な活動量を補えません。ハムスターは意外かもしれませんが、一晩でかなりの長い距離を動き回ります。狭すぎるケージでは運動不足になり、ストレスになります。小型のジャンガリアンハムスターでは横幅と奥行が最低でも40cmの広さが必要となります。ペアなど複数のハムスターを1つのケージで飼育することもできるジャンガリアン、キャンベル、ロボロフスキーでは、上記の目安よりも1.5倍程度広いスペースが必要かもしれません。大型のゴールデンハムスターでは、横幅50~60cm、奥行30cm位の広さが必要となります。また、ケージの大きさを優先するのではなく、自然の行動が再現できるように、トンネル、ブロック、回し車を設置することも理想とされています 〔Kuhnen. 1999.〕。これらの物を置くことで、複雑な行動もできてストレス発散にもなります。

床敷

床敷を厚く敷いて、その中に潜らせることが習性でもあるので理想ですが、交換の手間などを考えると小屋も併設することで問題が解決できます。一般的に2~5cmの厚さに床敷を敷くことが理想になります。床敷は木製チップが主でしたが、牧草、紙製チップ、コーンチップ、綿なども使用されています。

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小屋

巣穴で生活するハムスターにとって、暗くて体が隠れる場所が必要です。自分一人で落ち着ける小屋を必ず1つ用意して下さい。トンネルとともに小屋に潜ることは、ハムスターの三大習性の一つです。木製の小屋だとかじり木の役目にもなります。

ハムスター小屋

小屋の中に餌を蓄える習性がありますが、これもはハムスターの三大習性の一つです。好きなだけやらせてあげましょう。しかし、中で餌が腐っていることもあるので、定期的に綺麗にして下さい。

ハムスターの小屋の選び方とお薦め

トイレ

基本的にケージの四隅で排泄します。四隅の同じ場所にすることが多いので、そこにトイレを設置すれば、しつけができるかもしれません。また、ハムスターは綺麗好きなので、小屋とトイレは放して設置します。なお、ロボロフスキーハムスターはトイレを覚えないことが多くかもしれません。

ハムスタートイレ

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温度・湿度・照明

温度

ゴールデンハムスターは寒い冬になると冬眠することがあります 〔米田 1991〕。冬眠すると体力を消耗したり、そのまま死亡することもあるため、冬眠をさせない方がよいでしょう。

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冬の寒い時は保温が必要になります。エアコンなどでケージの部屋を暖めてもよいのですが、電気代がかさむことから、一般的にはケージの中だけを暖める保温器具が使われています (温度湿度)。

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ハムスター飼育

ケージを直射日光が当たる所や閉めきった部屋に置くと、熱中症になる可能性があるので注意して下さい。夏の暑い時はエアコンなどで温度を調節しましょう。小動物用の体を冷やす保冷グッツを使用するのも良いです。

ハムスター飼育

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湿度

特に夏はケージの中に熱がこもりやすくなるため、しっかりと水を与え、そして床敷などは少なくし、掃除の回数を増やすとよいです。床敷は尿や糞で汚れて湿度が上がりやすくなりますので、頻繁に掃除してあげましょう (温度・湿度)。特に水槽ケージの中は湿気がこもりやすいために、風通しのよい所にケージを置いて下さい。

20-26℃
湿度40-60%
表: 温度・湿度 〔実験動物施設基準研究会 1983〕

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照明

夜行性の動物なので、日光浴をさせる必要はありません。屋内でも昼夜の明暗をつけてあげましょう。

飼育環境のポイント!

  • ゴールデンは1頭飼育、ロボロフスキーは複数飼育可能
  • ジャンガリアンとジャンベルの飼育頭数は相性次第
  • ケージは高さは不要で、広くて潜れる環境を作る
  • 金網タイプ、箱型タイプ、水槽タイプのケージがある
  • 金網を齧って歯を折る、足を挟んで骨折するのは金網タイプ
  • 潜る習性があるので床敷を厚く敷き、体が隠れる小屋を置く
  • 低温にすると冬眠するので注意
  • 餌をため込むのは習性
  • ロボロフスキー以外はトイレを覚える

食餌

基本的にハムスター用ペレットを中心に、種子野菜などを与えます。ペレットのみのでも栄養学的には問題はありませが、ハムスターに食べる喜びを与えるために、他の食材もバランスよく組み合わせて与えます。時にタンパク源としてミルワームを与えてもかまいません。

ハムスターエサ

活動し始める夕方から夜の早い時間にかけて給餌します。

ハムスターエサ

ゴールデンハムスターは自由に餌を食べるような環境にさせても、一気に食べるようなことはなく、約2時間毎に食べる習性があります 〔Borer et al.1979.〕。ペレットや種子は常に餌容器に入れておき、しおれやすい野菜は時間を決めて新鮮なものを与えて下さい。果物やおやつなどはコミュニケーションの一環として、時々与える程度にとどめましょう。    

ハムスター野菜

ハムスターは好物の餌を頬袋に溜め込んで、後で出して食べることもあります。これもハムスターの習性ですので、実際の採食量を確認することは困難です。

ハムスター頬袋

餌容器に入っている餌を小屋まで運びこんで蓄わえる習性があるため、小屋の中に餌が隠されていることがあります。梅雨や夏では、隠された餌が腐ったりするので、時々ケージ内をチェックして、取り除いてあげましょう。

ハムスターの巣

ハムスターの栄養学の詳細は分かっていません。ハムスター用ペレット (ゴールデンハムスター) の栄養要求量は、 粗タンパク15%、粗脂肪5% 〔Committe on Animal Nutrition. 1987.〕 ともいわれていますが、いまだ論議されています。

タンパク質

実験動物のげっ歯類用ペレットでは約22%の粗タンパク質が必要量とされていますが 〔Balk et al.1987〕。しかし、ゴールデンハムスターの要求量は13.7~22% 〔Arrington et al.1966,Arrington et al.1979,Horowitz et al.1966,Banta et al.1975〕 と幅が広く、成長期や妊娠期では24%くらいが必要とされています 〔Harkness et al.1989,Birt et al.1981〕。

ハムスターペレット

おやつなどの蛋白が少ない餌を主食にすると、脱毛や皮膚炎が起こりやすくなります 〔Carpenter et al.2000〕。

ハムスターエサ

一般的に市販されているハムスター用ペレットは、粗タンパクが15〜24%の商品が多く、これらの商品で大きな問題は起こっていません。

脂質

げっ歯類ペレットの粗脂肪は4〜6%が理想とされてます 〔Knapka et al.1977〕。ゴールデンハムスターでは3.1~5.0%が必要量と報告されていますが 〔Knapka et al.1974〕、詳細は不明です。しかし、高脂肪食を与えると体重増加は顕著になり、死亡率は高くなります 〔Knapka et al.1974〕。ヒマワリの種子などの脂肪が多い餌を与えると肥満だけでなく、高脂血症動脈硬化が起こる恐れがあり 〔Hayes et al.1993〕、短命になる原因につながります。一方で脂質が欠乏すると、脱毛や麟屑などの皮膚疾患 〔Christensen et al.1952〕、成長不良 〔Holman 1968〕 が起こります。

ハムスターヒマワリ

繊維質

粗繊維が少なく、糖質やでんぷんが多い、おやつや果物などの餌は、死亡率が高くなります 〔Salley, et al. 1962.〕。粗繊維は腸内細菌の維持に必要な栄養素で 〔Snog-Kjaer, et al. 1963.〕、腸内細菌は、繊維質を分解して、消化・発酵に役立ちますので 〔Banta, et al. 1975.〕。ハムスターは、他のげっ歯類と同様に、食糞を行います 〔von Frisch. 1990.〕。

ビタミンとミネラル

正常な骨形成には、カルシウム(Ca)が0.6% 、リン(P)が0.35%の飼料が必要です。ビタミンDが欠乏しているとCaが0.47%、Pが0.2%でもくる病が発生します 〔Jones 1945〕。その他、ビタミンやミネラルなどの要求量は正確には分かっていませんが、欠乏症などの報告は数多くされています 〔Nutrient Requirements of the Hamster 1995〕。なお、ハムスターは食糞をすることでビタミンKを摂取します。

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ハムスターは乾燥地域に住んでいるため、大量の水を必要とする動物ではありません。特にドワーフハムスターでは水を積極的に摂取しませんが、水分が要らないのではなく、少量の水でも生存できるのです。このようなハムスターでは、野菜を多く与えることで水分摂取を補うようにして下さい。給水器はボトルタイプの給水器が使われます。

項目1日の体重100 gに対する量参考文献
飲水量8-10 mLBauck et al. 1997
オス 5 mLFitts et al. 1981
メス 14 mL
表: ゴールデンハムスターの飲水量

給水ボトルの水が餌容器の中に垂れないように設置して下さい。

ハムスター飼育

食餌のポイント!

  • 主食はペレット
  • ヒマワリを与えすぎない
  • 水の代わりに野菜を食べるハムスターもいる
  • 幼体では野菜を与えての下痢に注意する

ケア

ケージの中にハムスターをいれて餌を与えるだけという単調な飼育は、成長や健康維持、繁殖のみならず、精神的的なストレスの原因になります。ハムスターが持つ野生本来の行動を発現できるような環境作りのために、生息地に適応した体の特徴や生態を、環境エンリッチメントに沿って考えて下さい。

ハムスターの場合、ケージを広くしたり、回し車で運動させる以外に、ケージ内では物をかじる巣穴に潜る餌を蓄えるという三大習性を満たすことがエンリッチメントを満たすことになります。

運動

ケージから出して、部屋やサークルで遊ばせることは運動にもなり、ストレス対策にもなりますが現実的に部屋で放すと、家具の隙間に入ってしまったり、下敷きになったり、人に踏まれしまったり、観葉植物があるとかじって中毒が起こすことがあります。飼い主が観察していない限り、あまりお薦めできないかもしれません。

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ゴールデンでもジャンガリアンでも!クリアパネルで遊ぶ姿がよく見える6面パネルのサークルです。

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活発な動物で、飼育での最低の運動量は一概に定まっていません。広いケージで飼う以外にも、ケージの中で小屋に乗ったり、トンネルを潜るなども行動の範囲を広げます。

ハムスター小屋

一番楽に運動量を増やすには、回し車を回すことでしょう。ハムスターのストレスを減らす効果もあります〔Kevin et al.1998〕。

ハムスター回し車 

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かじり木

物をかじることは三大習性の一つです。不正咬合の予防にもなりますので、かじり木になるような物を置いてあげましょう。

ハムスター齧り木

木製の小屋やトンネルもかじらせる目的で与えるのもよいです。木に興味ない場合は、トイレットペーパーの芯、硬いトウモロコシや松ぼっくり(商品として販売されています)などを好む場合もありますので、性格にあったものを選んであげて下さい。

ハムスター

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トンネル

巣穴に潜ることは三大習性の一つです。小屋だけでも十分ですが、おもちゃとしてトンネルを与えると好んで潜りますので、行動パターンが広がります。

コミュニケーション

ゴールデンハムスターやジャンガリアンハムスターなどの種類は、馴れるように人とのコミュニケーションをとった方が扱いが楽になることがあります。ストレスにならないように少しずつ馴らしていきましょう。気が立っていると、かまれることもありますので注意して下さい。クロハラハムスターやロボロフスキーハムスターは性格的に人とのスキンシップは好みません。

コミュニケーションをとって馴らすには、最初に好物の餌を手渡しであげてみます。手に馴れるように臭いを嗅がせ、手を恐がらないようになったら、両手でそっとすくい上げて手のひらに乗せてみてください。まずは手に乗せられるようになりましょう。なお、身体が小さいロボロフスキーハムスターは部屋で放したり、手のひらに乗せたりすると、逃げて捕まらなくなることもありますので、無理しないで下さい。

砂浴び

飼育下では、砂浴び (砂浴による皮膚や毛の清浄 )や爪切りなどが必要になることがあります。砂浴びは積極的には行わないハムスターもいますので、無理にさせる必要はありません。また、砂浴びの場所とトイレの区別がつかないことも多く、トイレの砂で砂浴びします。野生では砂漠に近い環境で生活をしていたため、細かい砂が大好きです。トイレ砂も砂浴び用の砂も違いはないようなので、ハムスターにとって区別ができません。トイレの砂浴びも実際の害はほとんどないので、兼用したり、そのままにしておいても問題ありません。ケージの外側に取り付ける砂浴び容器というものがありますので、ケージの中が飛び散った砂で汚れません。

ブラッシング

毛が生え変わる春や秋は、歯ブラシなどでブラッシングをしてあげるのもよいです。特に長毛種は自分で毛づくろいをすることで、飲み込んだ毛による消化管閉塞が起こりやすく、急死することも珍しくはありません。しかし、かみ癖のあるハムスターやロボロフスキーハムスターでは無理して行わないでよいです。

爪切り

野生では爪を削る環境がありますが、飼育下では爪が伸びすぎることがあります。おとなしい性格であれば定期的に切ってあげましょう。

これがポイント!

  • かなりの運動量を欲するので、回し車は必要
  • 三大習性は、物をかじる、巣穴に潜る、餌を蓄える
  • かじる習性があるのでかじり木を与える
  • 砂浴びは必須でない
  • 爪が長い場合は切る必要がある

参考文献

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  • 米田 嘉重郎.シリアンハムスター.げっ歯目.田嶋嘉雄監. 実験動物学.各論.朝倉書店.東京.1991

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。