◎爬虫類・両生類のファンガーソンゾーン

ファンガーソンゾーン

爬虫類や両生類にとって適切な紫外線照射レベル、あるいはライトを用いて適切な紫外線を照射するガイドラインは存在していませんでした。今までは、野生の生態からの推測あるいは飼育個体での経験則からのデータから紫外線ライトが選ばれていました。そのような理由により、動物のUV-B曝露量は生息地における行動によって決まるため、野生個体のUV-B曝露量の自然な範囲を調査して、飼育個体の必要な紫外線量および被曝パターンを種類ごとに調べらました。得られたデータをもとに調べた両生類・爬虫類の種類を4つのグループ(ゾーン)に分類した表がファンガーソンゾーン(Ferguson zone)です〔Ferguson et al.2010〕。ゾーン1が最も紫外線量の少なく、ゾーン4が最も多い紫外線被曝量のグループで、つまりゾーンに該当する種類がどの程度日光浴をするかの概要になります。平均UVI範囲は、該当する成体が生息する地域全体のUVI測定の平均範囲です。最大UVI範囲は該当する成体が生息する地域内で最も高かったUVI測定値範囲で、この数値は1日のなかでの、正午の太陽直下などの最高値となるため、1日中この数値を保っているわけではありません。

ゾーン分類生態平均UVI範囲最大UVI範囲メソッド動物種
 ゾーン1日陰に棲息(薄明薄暮・夜行性・あるいは体温を周辺の外気温の変化に適当に任せている種類)0~0.70.6~1.4シェード(最も紫外線の当たる場所でも生息地の平均UVI値に収める)ツノヒメカメレオン
ヒョウモントカゲモドキ
ベトナムクシトカゲ
トッケイヤモリ
ツノミカドヤモリ
オウカンミカドヤモリ
アカメカブトトカゲ
エダハヘラオヤモリ
トゲヤマガメ
アカアシガメ(1~2)
モエギハコガメ(1~2))
キタカーペットパイソン(1~2)
アミメニシキヘビ
ビルマニシキヘビ
アメジストニシキヘビ(1~2)
コーンスネーク(1~2)
ミドリニシキヘビ
シナロアミルクヘビ
スチュアートミルクヘビ
オオアナコンダ(1~2)
ブラックマンバ(1~2)

スベイモリ
カイザーツエイモリ
ファイヤーサラマンダー
ホクオウクシイモリ
コロンビアミズアシナシトカゲ
ナタージャックヒキガエル
ミツヅノコノハガエル
サビトマトガエル
アカメアマガエル(1~2)
アフリカツメガエル
アフリカツノガエル
 ゾーン2半日向または時々日向で日光浴をする。0.7~1.01.1~3.0シェードあるいはサンビームグリーンアノール
グリーンバシリスク
メラーカメレオン
ヨツヅノカメレオン
オマキトカゲ
ガイアナカイマントカゲ
メキシコドクトカゲ
アメリカドクトカゲ(2~3)
モモジタトカゲ
ヒガシウォータードラゴン
バルカンヘビガタトカゲ
ジャクソンカメレオン(2~3)
ミドリホソオオトカゲ
ハナブトオオトカゲ
インドシナウォータドラゴン(2~3)
ハスオビアオジタトカゲ(2~3)
マダラアオジタトカゲ(2~3)
マツカサトカゲ(2~3)
セイブシシバナヘビ
ボアコンストリクター
マングローブヘビ
エメラルドツリーボア
サンフランシスコガータースネーク
ボールパイソン
モリイシガメ
ヒラセガメ
キアシガメ
パンケーキリクガメ(2~3)
トウブハコガメ
ニシキハコガメ
カミツキガメ(2~3)
ミシシッピニオイガメ(2~3)
ヒメニオイガメ(2~3)
カブトニオイガメ(2~3)
トウブドロガメ(2~3)
ヒラオリクガメ
モンキヨコクビガメ(2~3)
ボイルネカワガメ(2~3)
エロンガータガメ
アルダブラゾウガメ(2~3)
ミズジハコガメ(2~3)
トゲスッポン(2~3)
スベスッポン(2~3)
メガネカイマン(2~3)
フィリピンワニ(2~3)
ニシアフリカコビトワニ(2~3)
コビトカイマン(2~3)
グアテマラワニ

アシナシイモリ
イエアメガエル
オオヒキガエル
グリーンアイドフロッグ
グリーンマンテラ
ゴールデンアマガエル
ソバージュネコメガエル
マダガスカルキンイロガエル
マラノンヤドクガエル
モウドクフキヤガエル
 ゾーン3日向か半日向で日光浴をする1.0~2.62.9~7.4サンビーム(最も紫外線の当たる場所は生息地の最大UVI値の中に収める)ムカシトカゲ
ブラウンアノール
エリマキトカゲ
サバクイグアナ
パンサーカメレオン
パーソンカメレオン
エボシカメレオン
フトアゴヒゲトカゲ(3~4)
スタンディングヒルヤモリ
ミナミテグー
ダイヤモンドニシキヘビ
ヨーロッパクサリヘビ
オーストラリアナガクビガメ
インドホシガメ
マックォーリーマゲクビガ
キスイガメ
ヨーロッパヌマガメ
ギリシャイシガメ
チチュウカイイシガメ
クサガメ
ミシシッピアカミミガメ(3~4)
キバラガメ(3~4)
ミシシッピチズガメ(3~4)
ニシキガメ(3~4)
キボシイシガメ
フロリダアカハラガメ(3~4)
エジプトリクガメ
ヘルマンリクガメ
ギリシャリクガメ(イベリア種)
ヨツユビリクガメ
ベルセオレガメ
ヘサキリクガメ
ホウシャガメ
ヒョウモンガメ
ケズメリクガメ(3~4)
サバンナオオトカゲ(3~4)
オニプレートトカゲ
 ゾーン4真昼間に日光浴をする2.6~3.54.5~9.5サンビームフチゾリリクガメ
リバークーター
ガラパゴスゾウガメ
コモドオオトカゲ
ゲイリートゲオアガマ
ニシキトゲオアガマ
オオヨロイトカゲ
キタチャクワラ
トゲチャクワラ
サイイグアナ 
表:ファンガーソンゾーン

ファンガーソンゾーンに列記された種類は、当初は15種のみでしたが、その後他の複数の研究者や団体が調査研究を続け、2016年時点では254種がファーガソンゾーンに割り当てられています。

UVI

ファンガーソンゾーンにおいて、各ゾーンごとに必要な紫外線量が UVI(Ultraviolet Index) という定量的な数値で表されています。UVIは純粋な紫外線の量を表す数値ではなく、紫外線の中で、人体に影響がある成分だけを抜き出して計算された数値で、別名を波長別紅斑紫外線強度とも呼ばれ、簡単に言うと人の日焼けのしやすさを数値化したものです。人の日焼けのしやすい紫外線の成分は、皮膚が日光浴でビタミンDを生成するための紫外線成分のとほぼ同じであることから、UVIが使用されました。生息地の平均 UVI値とは調査時に生体が発見されたUVI値を種毎とに平均したものです。日光浴中の個体もいれば、日陰で休んでいた個体もいるでしょう。各個体が常に平均UVI値の中で生活したわけではなく、複数の個体の平均になります。生息地の最大UVI範囲は、生態における行動範囲で記録された最大のUVI値となり、例えば快晴の正午などは時間帯にかなり高温になります。これは最大UVI値の範囲の上限値を目指して紫外線を照射させるのではなく、自然界では状況によってはこれぐらいの UVI値にさらされることもあるくらいに思っておいて下さい。つまり、必ずしも同じゾーンの種であればこの平均UVI値の中でのみで生活しているというわけでもないのです。

各メソッド

ファーガソンゾーンで各グループにあるメソッドは、野生でどれくらい積極的に日向に出ていたかを考慮した設定になります。

シェード・メソッド(ゾーン1~2用)

夜行性の種類は体内でビタミンD3を生成できるため、紫外線は不要という考えもありますが、野生では完全に紫外線を浴びないということはありません。まれに日中に活動したり、寝床に日光があたることもあります。その考えでは、ゾーン1でも軽く紫外線を受けることができるようにすることが望ましいという考えです。ケージ内のかなりの部分に対してうっすらと紫外線が照射されているように設定します。紫外線ライト直下を平均UVIの範囲の最大値(ゾーン1で0.7、ゾーン2で1.0)にして、日陰に向かって、徐々にUVIが下がるようにライトを設置します。そのため、シェード・メソッドには、蛍光灯タイプの紫外線ランプが適しています。

サンビーム・メソッド(ゾーン3~4用)

積極的に日光浴を行う種類なために、明確なホットスポットを設けます、UVI値の数値を目安にケージ内に最大値UVI(バスキングゾーン)からUVIが0(日陰)の勾配(グラデーション)を作ります。ケージ内の明るく照らされたバスキングスポットに対して紫外線も照射するとよいです。サンビーム・メソッドには、水銀灯やメタルハライドランプ、紫外線照射量の多いライトが適しています。照射する紫外線の量の最大値は、最大UVIの範囲の最大値を上限とし、ゾーン4においても主なバスキング時間は主に午前中の早い時間帯にします。

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ライト選びと調整

現在はケージ内の UVI値を測定し(ケージの中で最も UVI値が大きい場所と小さい場所を探して測定し、センサー部は紫外線灯のほうに向けてることがポイントです)、ファーガソンゾーンを確認し(同じ属の種は生息地や必要な紫外線量が近い傾向にある)、現在にレイアウトにおいてUVI値が高すぎる場合は紫外線灯ライトを生体から遠ざけ、低すぎる場合は近づけます。そして、どのゾーンの種類においても、ケージ内に紫外線量の勾配をつけることが重要で、特にゾーン2と3は明確なホットスポットが必要です。つまり、ケージのなかで、最も大きな UVI 値からできるだけ紫外線の当たらない場所へと、グラデーションのように紫外線量を変化させます。その勾配の中で生体が自ら居場所を選んで移動できるようにし、野生下の日向と日陰の再現をするようにします。また、紫外線ライトは紫外線成分が太陽光と全く同じスペクトルでなく、部分的に強すぎる製品がほとんどです。目などの健康被害を防ぐため、紫外線ライトはゾーン4の種類でも UVIの上限は7~8程度が理想と言われ、ゾーン2の種類を大きなケージで飼育している場合にもサンビーム・メソッドを適用できますが、最大UVI値は3程度に抑えるべきです。そして、紫外線ライトの多くは時間経過で紫外線量が減衰しますので、適切な設定をした後も、こまめにUVI値を確認して、必要な値を下回った場合は早めにランプの交換をします。

ファーガソンゾーンの問題点

ファーガソンゾーンは非常に有効な指標とされ、多くの爬虫類飼育者に支持されています。しかし、UVIは紫外線の定量的評価であり、スペクトルである質が問題視されていません。そして、調査に使用された個体数が少ないことも欠点です。例えば、UV‐AとUV‐Bのバランスが不適切、生物に悪影響を及ぼすUV-C を大量に発するような紫外線ライトは、UVIメーターだけでは判断がつつきません。その製品がどれだけ太陽光と近い紫外線を発しているかは評価できないため、紫外線灯以外に自然光である日光浴もさせるべきです。

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参考文献

  • Ferguson GW,Brinker AM,Gehrmann WH,Bucklin SE,Baines FM,Mackin SJ.Voluntary exposure of some western-hemisphere snake and lizard species to ultraviolet-B radiation in the field: how much ultraviolet-B should a lizard or snake receive in captivity?Zoo Biol29(3):317-34.2010

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。