両生類・爬虫類の外気温動物

変温動物

変温動物(Poikilotherm)とは、外部の温度により体温が変化する動物をさし、かつては冷血動物(Cold-blooded)とも呼ばれていました。一般的には、鳥類と哺乳類以外の動物(無脊椎動物・両生類・爬虫類・魚類)が変温動物に分類され、対義語は恒温動物と言って自ら体温を産生することができる鳥類と哺乳類です。しかし、現代では、動物の体温制御が種によって多様であることが発見され、恒温動物と変温動物の2つに分ける考えは誤りであることが分かったため、これらの語は科学的には使用されなくななりました。例えば、ミツバチでは密集して飛翔筋を運動させることで熱を発生させて、巣内温度を調節することで体温を保つことができます。魚類ではカジキやマグロが特殊な血管構造によって高い体温と運動能力を確保できます。ナマケモノやハダカデバネズミのような哺乳類でも恒温動物とは言えない体温調節をするものがいます。陸生爬虫類であるカメやトカゲは、甲羅干しや日光浴することで体温を気温より高めることができます。この特徴を表すには、体温を左右する機構に着目した外温性(Ectothermy)という言葉が相応しく、こような能力を備えたものを外気温動物と呼ばれています。体内で生み出される代謝熱を主に利用して環境温度より体温を高めている性質を対義語で内温性(Endothermy)と呼ばれます。

外気温動物

外気温の変化に応じて自身の体温も変化させ、免疫・代謝が活発になる至適体温(Preferred Body Temperature:PBT)を維持します。環境熱や適応行動などの外部ソースに依存していますが、その主要な方法は日光浴になります。池や沼で、水から上がって池のふちで甲羅を太陽に向けて一休みしている水ガメを見かけますが、これは太陽の光を浴びて体温を上げている日光浴ですが、甲羅干しとも呼ばれています。高温の環境ならびに体温が上昇したら、今度は下げることも自らできないため、涼しい日陰などに移動させて体温を下げたり、水分を節約することに努めます〔Kearney et al.2009,Sears et al.2015,Sears et al.2016〕。水ガメは池に潜って過剰な体温を下げてPBTを維持します。

内温性の動物では、外気温の変化に影響されず体温を一定に保つことができますが、体温を上げ過ぎないようにする方法は発汗です。汗をかくことによって水分が蒸発して熱が奪われることで体温を下げます。発汗以外にも体温が上がりすぎないようにする仕組みはいろいろあり、鳥肌や血管収縮、さらに、寒いときに体がブルブル震えるのも体温を維持するための仕組みです。外気温動物は外気温が下がる冬が近づくと、代謝を低下させて、活動も食欲もなくなります。つまり四季のある地域では、野生の両生類や爬虫類は冬眠という休眠手段をとることで越冬します。そのため飼育下の両生類と爬虫類には、最適な代謝、効果的な免疫機能、および生殖を可能にする種固有の温度範囲である至適温度範囲(Preferred Optimum Temperature Zone:POTZ)で飼育をすることが基本となります〔McBride et al.2004〕。外気温動物の全ての生理学的プロセスは、何らかの形で温度の影響を受け〔Bicego et al.2006,Zug et al.2001〕、体温を調節するために、日光浴をするだけでなく、姿勢や行動の変化を始めとする代謝熱産生に関わる行動的および生理学的メカニズムを備えています〔Zug et al.2001,Tattersall et al,2006〕。 外気温動物のメリットは、恒温動物に比べて食料不足に対する適応度が高いことが上げられます。恒温動物は餌によって体温を維持しており、食料不足になると消耗により衰弱します。しかし、食用不足の外気温動物は、自身の意思でエネルギー消費の少ない低体温に維持できれば、体温を維持するためのエネルギー消耗の必要がなく、動かなければエネルギー消費は抑えられますので、その結果食料不足でも長く生きられます。一方デメリットは、恒温動物に比べて寒い環境への適応度が低く、外気温が下がれば体温も下がります。体温が低いと活動できなくなり、凍死したり天敵に襲われたりする可能性が高くなります。

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両生類・爬虫類の熱産生

爬虫類や両生類が気温が下がる環境にいると、伝導率、皮膚の厚さ、血管運動反応により、その外温動物の体温はそれに応じて、通常はわずかな遅れで下がります〔.Brattstrom 1971〕。しかし、外温動物の体温調節の重要な要素は心血管系にあります。爬虫類は心拍数を増加させることで熱吸収率を高め、一方冷却時には心拍数を下げて体温を保つことができる種類がいます〔Kik et al.2005〕。体温に関係なく、加熱中の心拍数は冷却中よりも大幅に速く、心拍数ヒステリシスとして知られています〔 Franklin et al.2003〕。ラバーボア属(Charina sp.)のヘビは、加熱と冷却の速度を制御でき、冷却するよりも加熱する方が速いことがわかっています〔Zhang et al.2008〕。代謝による熱産生の最も優れた例はオサガメ〔James et al.2004〕、卵を抱卵しているメスのニシキヘビです〔Hutchison et al.1966〕。体温を気温よりかなり高く上げることができる他の例としては、アンデスの高地で研究されたヤマイグアナ属(Liolaemus)とヒキガエル(Bufo spinulosus)があります〔Pearson et al.1976〕。それ以外でも、ヒガシアゴヒゲトカゲ〔Brattstrom 1971〕、クロネズミヘビ〔Raske et al.2012〕、コーンスネーク〔Raske et al.2012〕、トウブハコガメ〔Raske et al.2012〕、アミメニシキヘビ〔Slip et al.1988〕でも報告され始め、給餌後には体温が上がるインドニシキヘビ〔Marcellini et al.1982〕やコーンスネーク〔Roark et al.2000〕も知られています。特にヒガシアゴヒゲトカゲは外温性から内温性への体温調節パターンの進化を示すモデルとみなされるようになりました〔Brattstrom 1971,Bartholomew et al.1963〕。

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参考文献

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この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。