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ストレスを受けやすい
モルモットはストレスを受けやすい動物であることが有名で、実験動物ではストレスによって生じたホルモンの測定などの研究に使用されています〔Sachser et al.1991〕。近年は人のストレスによる自閉症のための動物モデル(モルモットGS株)としても使用され、環境への応答の欠如査、社会的相互作用の不適当な行動が研究されています〔Caston et al.1998〕。
ストレスの原因
モルモットにおいて集団でいることは、集団的防衛や繁殖の能率化もありますがが、体を寄せ合うことで精神が落ち着くと言われています。相性のあった個体と同居すると、異常な鳴き声もあげずにストレスも緩和した報告があります〔Hennessy et al.2019〕。1頭での生活や相性が悪い個体との同居はストレスにしかならないでしょう。またモルモットは出生後に母親の関与をほとんど必要としないとされていましたが、群れることならびに母親との同居は子は、精神的行動に良い作用を及ぼすことも判明しています〔Hennessy2003〕。現在、モルモットの社会的性質や社交性の必要性が注目されています。もちろん、不適切な温度や湿度、騒音、餌の栄養のアンバランスなどもストレスにつながります。
ストレス兆候
ストレスは以下のような症状や行動をモルモットに引き起こします。
- 隠れる
- 眠る時間が長い
- 緊張している
- 過敏になっている
- 触られたくない
- じっとしている
- 食欲不振
- 脱毛
- 歯をむき出しにしたり
- シューッという音を立てる
- 歯をカチカチカチと鳴らす
- 頭で物を押す
- ケージ網を咬む
隠れる(Hiding)
モルモットは被捕食動物で、野生では捕食者に追い詰められることがよくあります。このため、彼らは脅迫されたと感じたときに隠れる本能を持っています。小屋に隠れて外に出てこなくなります。しかし、モルモットは新しい環境に置くと隠れる傾向がありますが、これは臆病な性格のためです。一部のモルモットは恥ずかしがり屋の性格を持っており、他のモルモットよりも隠れる傾向がある個体もいます。
睡眠時間が長い(Sleeping)
通常よりも長い睡眠時間をとることは、モルモットがストレスや不安を感じていることを示している可能性があります。もちろん一部のモルモットでは他のモルモットよりも多く眠ることもあります。そのため、通常と比べてどれだけ長く寝ているのか確認して、判断するようにして下さい。ただし、モルモットの睡眠時間が長いのはストレスだけでなく、病気の可能性もあります。
緊張している(Nervousness)
モルモットの緊張状態とは動きが硬い、いわゆる少し動いては警戒して立ち止まるのを繰り返したりするような行動です。新しい環境に慣れていないとこのような歩行をよくします。
過敏になっている(Irritability)
少し触っただけでも泣き叫ぶような時は過敏な状態です。
触られたくない(Not wanting to be held)
いつもは大人しく抱っこができるのに、抱っこを嫌がって抵抗してきます。
じっとしている(Freezing)
突然大きな音がなると、驚いてじっとします。まるで完全な彫像のように静止します。
食欲不振(Poor appetite)
ストレスによって当然ですが食欲不振が起こります。モルモットの消化器系は非常に敏感であ、食欲不振まで起こる場合は大きなストレスか慢性的なストレスがあるはずです。拒食だけでなく、ストレスによって胃腸蠕動が低下し、胃腸うっ滞などが発生します。
脱毛(Hair loss)
モルモットは性格が温和で、引っかいたり、咬んだりすることはありませんが、モルモットではストレスによる異常行動として、自身の毛を咬む(毛咬症/バーバリング)ことは有名で、同居個体や人も咬んだりします。被毛が根元で咬まれたり、抜毛まですると脱毛ですが、被毛が咬まれて短くなって段差がついたり、不揃いになっているような感じにみえるだけの個体が多いです。
歯をむき出しにしたり(Baring its teeth)、シューッという音を立てたり(hissing)、歯をカチカチカチと鳴らす(chattering)
歯をむき出しにする、シューという音は、モルモットが何かを警戒し、攻撃的になり始めています。歯がカチカチと鳴らすのは威嚇他にも不正咬合の可能性もあります。
頭で物を押す(Head tossing)
頭を使って物や相手を押すのは攻撃性の行動です。
ケージ網を咬む(Bar chewing)
ケージの金網を咬み続けるのは有名なストレス行動です。ただし、空腹でのエサのおねだりやケージから出たい時の飼い主への呼び掛けでケージ網を咬んで鳴らす個体がいます。
不健康になる
ストレス兆候を示していると、時間の経過とともに健康上の問題につながる可能性があります。重度で慢性的なストレスはモルモットにダメージを与え、衰弱する可能性があります。
対策
普段からモルモットを扱おうとする際には、ゆっくりとアプローチし、優しく話しかけることが重要です。モルモットは数多くの鳴き声を使い分けて意思表示をしています〔Berryman 1976〕。乱暴で手荒な取り扱いをすると、モルモットは恐怖のあまり体を硬直させたり(Freezing)、拒否を示す鳴き声をあげます(Irritability)。突然後ろから触ること、前方に突発的に走り出して、事故が起こることもあるので注意して下さい。
ストレスのたまったモルモットを落ち着かせる以下の4つの対応があります。
- ストレスの原因を突き止める
- 小屋やおもちゃを与える
- 一緒に群れる
- ケージを覆う
ストレスの原因を突き止める
モルモットが不安になる理由は様々です。モルモットがストレス兆候を示し始める直前に何が起こったのか考えてみてください。「犬猫などの補食動物をモルモットの部屋に入れていないか?」「窓際からカラスなどが見えていないか?」「ケージを置く部屋やケージ内レイアウトを変えていないか?」「モルモットを追いかけたり、不適切に扱ったりしたか?」「騒音はないのか?」「小屋は入っているのか?」「飼い主とモルモットのコミニュケーション不足はないのか?」「おもちゃを入れているのか?」・・・モルモットと意思疎通をするために、モルモットの日頃の行動や鳴き声を理解して、コミュニケーションをとらないといけません。
小屋やおもちゃを与える
モルモットはより安全に感じるために隠れ家的な小屋が必要です。小屋がないと隠れる場所がなく、モルモットは不安を感じます〔Banjanin et al.2004〕。また、遊んだり噛んだりするためのおもちゃは、退屈させないためにも必要です。モルモットはエサを手で持つことはせず、地面から口で直接拾いますので〔Kunkel et al.1964〕、ラットやマウス、ハムスター、またはウサギに与えるおもちゃは、モルモットには関心を示さず不向きです。しかし、モルモットは前肢を使って牧草を床に押し付けながら、茎の長さをかじったり噛んだりしているのをよく観察します。牧草入れから牧草を引っ張ることもおもちゃ的な役割をします。単なる木製の棒を咬んで遊ぶこともします〔Scharmann 1991〕。ケージの壁に取り付けるかじることを予防する木片などには興味をもちます。モルモットは一般的に登ったりジャンプはしませんが、小屋の中で隠れることを好む性質から、トンネルなどに興味をもちます。
一緒に群れる
野生のモルモットは群れで暮らしり、支配的なオスとメスとの社会的階層のある生活をしています。社会生活において様々な刺激を受けていますが、モルモットは性成熟前に経験する社会的経験が重要で、その後の成体になってからの行動や社会生活におけるストレスと深い因果関係があります〔Sachser et al.1994,Fenske 1992〕。つまり生後の幼体での成長期間には母親および群れの仲間と暮らす経験が必要であり、欠如すると成体になってからの異常行動の発現や他のモルモットとの社会的対応が上手くできません。
ストレスは症状や行動以外にも、内分泌や脳機能の変化を引き起こすことが示されています。これらは両方とも、後で社会的行動の変化によって証明されます。内分泌の失調によってメスがオスでみられる尿によるマーキングを行ったり、成体での幼児の行動などが認められました。早期の母親から離別された幼体の発声は、親と一緒に飼育された幼体よりも大きい、同居できるモルモットとの対応が上手くできないなどの脳機能の欠落を示しました。したがって、群居性のモルモットを1頭で飼育することは本来推奨できません。同居できるモルモットが必要とされますが、雌雄だと繁殖して増えてしまう問題があり、オス同士だと喧嘩を起こすので、メス同士の複数飼育が理想になります。ただし、知らない存在のモルモット同士ではストレスになるため〔Sachser et al.1989〕、姉妹や母娘の関係が理想です。それ以外の関係のモルモット同士であれば、別ケージで並べて飼育して相手の存在を認識させ、時間をかけて良好関係を保てるか観察しながら行って下さい。複数飼育ができない場合は、人がモルモットとコミュニケーションをはかり、スキンシップをるようにして下さい。
ケージを覆う
搬入したばかりのモルモットでは、新しい環境になるのでモルモットにストレスがかかるのは当然です。時間をかけてゆっくりと馴らして下さい。しばらくはケージを覆って飼育をし、モルモットを驚かさないようにしましょう。
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参考文献
- Banjanin S et al.Environmental Enrichment for Guinea Pigs:A Discussion by the Laboratory Animal Refinement & Enrichment Forum.Animal Technology and Welfare3(3):161-163.2004
- Berryman JC.Guinea pig vocalizations: their structure,causation and function,Z Tierpsychol41:80-106,1976
- Caston J,Yon E,Mellier D et al.An animal model of autism:behavioural studies in the GS guinea-pig.Eur J Neurosci10(8).2677-84.1988
- Fenske M.Body weight and water intake of guinea pigs: influence of single caging and an unfamiliar new room.Journal of Experimental Animal Science35:71-79.1992
- HennessyMB.Enduring maternal influences in a precocial rodent.Developmental Psychobiology42(3).225-36.2003
- Kunkel P,Kunkel I.Beiträge zur Ethologie des Hausmeerschweinchens Cavia aperea f.porcellus (L.) [Contribution to the ethology of the domesticated guinea pig].Zeitschrift für Tierpsychologie21:602-641.1964
- Scharmann W.Improved housing of mice, rats and guineapigs: a contribution to the refinement of animal experimentation. Alternatives to Laboratory Animals19:108-114.1991
- Sachser N,Lick C.Social stress in guinea pigs.Physiol Behav46(2):137-44.1989
- Sachser N,Lick C.Social experience, behavior,and stress in guinea pigs.Physiol Behav50(1):83-90.1991
- Sachser N,Lick C,Stanzel K.The environment,hormones,and aggressive behaviour:a 5-year-study in guinea pigs.Psychoneuroendocrinology19(5-7):697-707.1994