正常? 異常? ラットの赤色涙

赤黒いカスついていませんか?

目の周りにピンク、さび色、オレンジ、黒色のカスのような分泌物が付着し、これらの分泌物がもれ出して、鼻腔を通って排出されて鼻孔を出ると、鼻の周りにも分泌がが見られます。目と鼻は鼻涙管で繋がっているので鼻にも分泌物がついていることがあります。血液と間違えられる可能性がありますので注意して下さい。これはラットの赤色の涙紅涙(Reddish tear)と呼ばれていますが、血液ではなくポルフィリンという色素成分になります。そのために色素涙(Chromodacryorrhea)とも呼ばれています。

これらの分泌物は、毛づくろいの際に口に入ることで体内に吸収され、他の臓器でのポルフィリン濃度の増加が起こります。そのために糞や尿にもポルフィリンが排泄されます。紅涙は正常でも見られますが、自律神経異常やストレスによって多く分泌します。なお、紅涙はマウス・ウサギ・モルモットには発現しません。

ハーダー腺とは?

ハーダー腺は動物の眼窩に存在する腺組織で、 特にげっ歯類では発達しており、げっ歯類ならびにウサギでは、眼窩静脈洞(血管)も顕著でハーダー腺の表面を覆っています。特にげっ歯類で大きく、ラットのハーダー腺は不規則な形をしており、眼球と眼窩縁の間の空間の内側に突き出ています。腺は後方で側頭筋と接触して、腺の開口する管は瞬膜の基部にある結膜嚢に通じています〔Payne 1994〕。

引用元: https://www.niehs.nih.gov/research/resources/visual-guides/guides/eye-lacrimal-tongue-zymbals/index.cfm

ハーダー腺の分泌物は動物種によって異なります。ラットでは主に脂質で、ポルフィリンは腺内に蓄積されます。一部のげっ歯類では、ハーダー腺のポルフィリン濃度は性別や種によって異なり、オスよりメスの方が濃度が高くなる傾向があります。しかし、ラットでは性差はありません〔Edmyr 2005〕。ラットのハーダー腺でのポルフィリンの産生は年齢とともに増加し、生後20ヵ月齢の個体では、3ヵ月齢よりも多いですが、2歳前後に達すると逆転する傾向があります〔Rodriguez et al.1992〕。

ハーダー腺の分泌物の作用は眼球の潤滑作用、フェロモン分泌作用、光受容体として生物リズムの調節等です。眼球の潤滑作用として、分泌物は脂質(グリセリル-エーテル-ジエステルないしワックス-エステル)からなりますが、ラットの分泌物に含まれるポルフィリン色素の役割等は不明です〔酒井 1981〕。ラットではアセチルコリンを投与したり、強いストレスを与えることで30~40分で紅涙が発現し、体重が大きい個体ほど分泌が早く見られると言われています〔Harkness 1980〕。実験では、アトロピンを投与することでポルフィリン分泌が阻止されるために、副交換神経を介する作用によるものと推定されています〔本間 1978〕。

ポルフィリンとは?

ポルフィリンは天然には存在せずに動物や植物体に存在し、いずれも生体内で重要な働きをしています。体内で多くの重要な物質を形成するのを助ける役目があります。4個のピロール環が−CH=結合で環状に結ばれた構造を持つ化合物の総称で、生体内では金属と結合しています。鉄と結合したポルフィリンは、ヘモグロビン(血色素)、ミオグロビン(筋色素),チトクロム(呼吸色素),カタラーゼなどのタンパク質補欠分子として,マグネシウムと結合したポルフィリンは葉緑素として、多くは赤色または緑色を呈しています。紫外線の下でポルフィリンを見た時に蛍光を発するのも特徴です。

引用元: Wikipedia ( https://ja.wikipedia.org/wiki/ポルフィリン )

鉄と結合した鉄ポルフィリンは赤血球の源であるヘムの生合成経路の中間体として機能します。細胞内では、これらのポルフィリンは透明ですが、細胞を離れて涙や血液の分泌物に現れるまで、または尿や糞便に排泄されるまで蛍光を発しません。いくつかのタイプのポルフィリンがラットのハーダー腺に見られ、主なものはハルデロポルフィリン、ウロポルフィリン、コプロポルヒリン(ペンタカルボン酸、ヘキサカルボン酸、ヘプタカルボン酸)、およびプロトポルヒリンIXです。これらのうち、プロトポルヒリンIXは、ラットのハーダー腺に見られるポルフィリンの大部分を占めています〔Edmyr 2005〕。

正常?異常の鑑別?

健康なラットと病気のラットの両方で見らえますが、目の近くや鼻孔に少量が見られるのは正常です。また、病気で本当の血液が混じっているかどうかの判断は、ウッド灯を照らして蛍光色を発するかどうか確認をして下さい。ただし紅涙が継続的または増加する量がある場合、病気の可能性もあります。ラットにおけるポルフィリン分泌物の過剰産生の原因は以下にあげられますが、食欲や活動性、呼吸状態などを確認をして病気であるのか判断します。

  • 脱水
  • 栄養不良
  • 疼痛
  • 病気(細菌やウイルスなどの全身性感染)
  • 鼻涙管の閉塞
  • 眼疾患
  • 環境ストレス
  • 空気中の刺激物(飼い主の香水や喫煙)

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参考文献

  • dos Reis ER, Nicola EMD, Nicola JH. “HARDERIAN GLAND OF WISTAR RATS REVISED AS A PROTOPORPHYRIN IX PRODUCER.”. Braz J Morphol Sci. 22 (1). 43-51. 2005.
  • Harkness JE, Ridgway MD. Chromodacryorrhea in laboratory rats (Rattus norvegicus): etiologic considerations. Lab Anim Sci. 30 (5): 841-844. 1980.
  • Payne AP. Pheromonal effects of Harderian gland homogenates on aggressive behaviour in the hamster. J Endocrinol. 73 (1): 191-192. 1977.
  • Rodriguez C, Menendez-Pelaez A, Howes KA, Reiter RJ. Age and food restriction alter the porphyrin concentration and mRNA levels for 5-aminolevulinate synthase in rat Harderian gland. Life Sci. 51 (24): 1891-1897. 1992.
  • 坂井建雄. 哺乳類のハーダー腺. Archivum histologicum japonicum. 44 (4): p299-333. 1981.
  • 本間ら. ラット紅涙分分泌現象に関する研究13. 日本実験動物学会講演要旨集. p47. 1978.

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。