フェレットの飼育

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意外と簡単

フェレットを飼うことは、他の動物と比べて難しくはありません。ポイントをおさえてください。

法的飼育

フェレットが法的に飼育できない国や地域があります。脱走したフェレットが野生化して、繁殖するとその場所の生態系が崩れてしまうからです。アイスランド、オーストラリアのクイーンズランド及びノーザンテリトリー、アメリカのニューヨーク州、カリフォルニア州などでは飼うことができません。日本国内でも、北海道で飼育をするのに届け出が必要になります。2001年10月に施行された「北海道動物の愛護及び管理に関する条例」に基づいて、フェレットが特定移入動物に指定されています。

飼育頭数

単独飼育で問題ないですが、集団飼育も相性が悪くなければ可能です。集団でいると年齢による生活パターンが異なり、幼体は活動的ですが、高齢のフェレットは寝ている時間が長いので、同居させるとストレスになるかもしれません。先住のフェレットに新しいフェレットを一緒にすると、食欲が落ちたり、軟便・下痢を起こすことがあります。その原因はストレスともいわれたり、お迎え症候群と呼ばれています。お迎え症候群は細菌やウイルス感染が関与しているとも言われています。

ケージ

ケージに入れての飼育だけでは運動量が足りないため、ケージから出して部屋で運動したり、遊ぶ時間も設けましょう。特に幼若齢個体では、運動量を増やす必要があります。しかし、加齢とともに運起きている時間は減り、睡眠と餌の時間に多くがあてられるようになります。実験動物では成体のオスは1頭あたり6000cm2、成体のメスや幼体は5400cm2 が最小の床面積とされ、高さも50cmが必要とされています〔Quesenberry 1995〕。金網タイプのケージが推奨され、餌容器や給水器、トイレ、玩具、寝具などをレイアウトして設置してください。寝具があれば、床は金網床でも、布だけ敷いてもよいです。

フェレットは頭が入る程度の穴があれば脱走することができます。小さい隙間に対して、顔を縦にして入り込み、身体をくねらせて脱走することができるため、フェレット用ケージの金網の幅は狭く作られています。

睡眠や休息をとるための寝具は必ず用意して下さい。専用のハンモックや寝袋が市販されていますので、その中に体を器用に丸めて入れて休息します。

金網ケージはかまないように注意して下さい。かむことで犬歯が破折しますが、多くのフェレット用ケージの多くは、金網のピッチが狭いのでかまれないように作られています。

フェレット用トイレは出入りしやすいように、前部が低く、側面と後方が高い。壁が高くつくられているのは、後ずさりして臀部が壁に接触したところで腰を下垂して排便するからです。フェレットは排泄物に砂をかける習性を欠くため、猫のようにトイレ砂を深く敷く必要はなく、浅く敷いておくだけでよいです。

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温度・湿度・照明

温度

汗腺が未発達な動物で、暑さに弱く、寒さに強いです。夏にケージを直射日光が当たる所やしめきった部屋に置くと、熱中症になる可能性があり、部屋の温度を観察し、涼しい場所に置いてあげて下さい。約32℃以上の温度に耐えることができないともいわれています〔Brown 1997〕。冬の寒い時は、保温器具で寒さを防ぐ工夫をし、夏は冷房や送風などで温度が上がりすぎないように注意して下さい。

温度15-24℃
湿度40-60%
表:温度・湿度〔Quesenberry 1997〕

照明

季節繁殖動物で、照明は12時間の明暗条件で飼育するのが理想とされています。明暗の光の周期はホルモンに変調を与える大きな要因で、副腎疾患や季節性の脱毛の原因といわれています。

食餌

肉食動物であるフェレットの餌は動物性原料が理想で〔McLain et al.1988〕、一般的には大量のタンパク質と脂肪、そして少量の炭水化物を与えればよいとされています〔Carpenter 2000〕。一度に満腹になるまで食べるというよりは、少量ずつ何度も食べる習性があり、ペレットを主食にし、水とともに自由に食べれるようにして下さい(置き餌)〔Kaufman 1980〕。置きエサにすると過食により、肥満が懸念される時には1日の食べるペレットの量を4~5回に分けて与えてます。餌を食べる回数が多いこと、加齢とともに睡眠時間が多くなること、つまり食べては寝ての毎日のために肥満になりやいです。

犬や猫と比較して短く単純な消化管であるため、消化時間も短いです。消化性の優れた食材が理想です。餌を食べて排泄するまでの時間は犬や猫と比べてもとても短時間で、肉を基本とした場合は148~219分〔Bauck 1981〕、ペレットでは150~180分くらいです。多くのフェレットは、同じペレットを飽きずに生涯にわたって食べ続け、ペレット以外の食材を要求しないことが多いです。このような食事スタイルは、運動不足も影響して、フェレットは一般的に肥満になりやすいです。ペレットは、粗タンパク質32~38%、粗脂肪20~30%、粗繊維2%以下を満たす商品が理想とされています〔Carpenter 2000〕。一般的には32~38%の粗タンパク質が必要とされていますが〔Carpenter 2000〕、非繁殖個体には30~40%、成長期や繁殖個体では最低約35%が必要とされています〔Bell 1999〕。与えるペレットの成分は動物性タンパク質が理想です。ペレットの成分表を確認して下さい。

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食べるようであれば、ペレット以外にササミや卵を与えてもよいですが、多くのフェレットは理由は不明ですが、好みません。フェレット用のペレットと比較して低タンパク質であるドックフードやキャットフードを与えると尿のアルカリ化が起こり、尿結石を発症する要因になるといわれています〔Bell 1999〕。脂肪は動物性脂肪が理想で、植物性脂肪より嗜好性も優れています。特に成長期には脂肪から吸収されたエネルギーを最大限に活用します。脂肪の欠乏が起こると、毛が粗剛になって、痒がったりします。理想の粗脂肪は20~30%ですが〔Carpenter 2000〕、幼体や授乳・妊娠個体では約25%が必要になります〔Bell 1999〕。フェレットは盲腸を欠くため、繊維質の消化が苦手です。野菜や果物などの植物性の繊維質を大量に与えると、消化不良を起こす原因となります〔Bell 1999〕。ふやかしたペレットを与えると歯石がつきやすくなるため、乾燥した状態(ドライフード)で給餌するべきです。

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飲水

給水器も皿タイプとボトルタイプがありますが、多くが壁掛け式の給水ボトルで飲みます。ペレットをふやかして与えていると、そちらの水分で十分になり、あまり水を飲まないことがあります。

採食量約43g/㎏/日
飲水量75-100mL/頭/日
表:温度・湿度〔Quesenberry 1997〕

ケア

ケージの中にフェレットをいれて餌を与えるだけという単調な飼育は、成長や健康維持、繁殖のみならず、精神的的なストレスの原因になります。フェレットが持つ野生本来の行動を発現できるような環境作りのために、生息地に適応した体の特徴や生態を環境エンリッチメントに沿って考えて下さい。

フェレット

幼体は非常に遊び好きですが、加齢とともに遊ぶ時間が減ってきます。また、幼体ではかみ癖とトイレのしつけをしないといけないフェレットが多いかもしれません。

遊び

フェレットは幼体の時はかなり活発です。甘がみする子もいますが、多くはしつけで治ります。人に馴れると遊びに誘ったりするなど愛嬌のある仕草を示します。人に馴らすためには幼体からコミュニケーションをとるべきですが、幼体はかみ癖がありますが、たいがいはしつけでなおります。

フェレットのかみ癖のしつけの詳細な解説はコチラ!

興味を示す玩具は、ボールやトンネルで、特にトンネルなどの筒に潜り込むことを好みます。

部屋の中で放す際には、異物を食べるこに注意して下さい。特にゴム製品を咬むことが好きで、消しゴム、輪ゴム、哺乳瓶の乳首などは、粉々にして破片を誤飲します。年寄りのフェレットは遊ぶ時間が減ります。

フェレット

被毛管理・消臭対策

毛繕いを積極的に行わず、大量の被毛を飲みこむと、胃内で毛球が形成されることがあります。特に長毛種は積極的なブラッシングをしてあげて下さい。体臭が強い個体、皮脂が多くなりベタベタする時は、シャンプーや入浴を行います。

爪切りと耳掃除

フェレットは耳垢が蓄積し、爪も伸びます。定期的に耳掃除と爪切りが必要になります。

フェレットの耳掃除と爪切りの詳細な解説はコチラ!

歯石

フェレットは歯石がつきやすいです。口腔内を定期的に観察して歯石対策をしましょう。

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疾病予防

フェレットは犬と同じようにジステンパーフィラリアの予防、そしてノミやダニの予防なども行えます。屋外へ散歩するフェレット、ペットショップや動物病院に預ける場合は予防をしていないと預かってくれないことが多いです。

フェレット

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参考文献

  • An NQ,Evans HE.Anatomy of the ferret.In Biology and Disease of the ferret.Fox JG ed.Lea&Febiger.Philadelphia:p14-65.1988
  • Bauck LS.Salivary mucocele in 2 ferrets.Modern veterinary practice66:p337-339.1985
  • Bell J.Ferret nutrition and disease associated with inadequate nutrition.Proceedings of the North American Veterinary Conference.Orland.FL:p719-720.1999
  • Brown SA.Basic Anatomy,Physiology,and Husbandry.In Ferrets,Rabbits,and Rodents Clinical Medicine and Surgery.Hillyer EV,Quesenberry KE.eds.WB Saunders.Philadelphia.p3-13.1997
  • Carpenter JW,Kolmstetter CM.In Small Animal Clinical Nutrition.4th ed.Hand MS,Thatcher CD,Remillard RL,et al.eds.Mark Morris.Kansas:p1069-1090.2000
  • Donovan BT.Light and the control of the estrous cycle in the ferret.J Endocrinol39:105.1967
  • Fox JG.Reproduction,Breeding,and Growth.In Biology and Disease of the Ferret.Fox JG.eds.Lea&Febiger.Philadelphia:p174-185.1988
  • Kaufman LW.Foraging cost and meal patterns in ferrets.Physiol Behav25:139.1980
  • King CM,Powell RA. The Natural History of Weasels And Stoats: Ecology,Behavior, And Management.Oxford University Press.2007
  • Marshall FHA,Hammond Jr J.Experimental control of hormone action on the estrus cycle in the ferret.J Endocrinol4:159.1945
  • McLain DE,Thomas JA,Fox JG.Nutrition.In Biology and Disease of the ferret.Fox JG.ed.Philadelphia.Lea&Febiger.1988
  • Miller PE.Ferret ophthalmology.Sem Avian Exotic Pet Med6:p146-151.1997
  • Plant M,Lloyd M.The ferret.The UFAW handbook on The Care and Management of Laboratory and Other Research Animals.8th ed.Hubrecht R,Kirkwood J.eds.Wiley-Blackwell:p418-431.2010
  • Quesenberry KE.Ferrets:Basic Approach to Veterinary Care.In Ferrets,Rabbits,and Rodents Clinical Medicine and Surgery.Hillyer EV,Quesenberry KE.eds.WB Saunders.Philadelphia.1997
  • Thompson APD.A history of the ferret.Journal of the History of Medicine6:p471-480.1951

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。