フェレットってどんな動物(知らないといけない生態と特徴)

野生にはいない

フェレットはイタチのに属しますが、野生にはおらず、紀元前から人が家畜にした動物で。

分類

歴史

フェレットはヨーロッパケナガイタチあるいはステップケナガイタチを家畜化したといわれ 、それらの亜種として扱われることもあります。現在はフェレットは狩猟用、毛皮の採取などに用いられ、実験動物やペットとしても幅広く扱われています。

ヨーロッパケナガイタチ

フェレットは系統学的研究から、ヨーロッパのケナガイタチ( Mustela putorius ) から飼いならされたもので、この種の北アフリカ系統の子孫である可能性が高いと言われています〔Sato et al.2003〕。人に飼いならされた本来の理由は不明ですが、狩猟が関係していた可能性が高いと言われ、飼育されているフェレットの絵が古代エジプトの壁画に描かれており、人との付き合いは約3,000年ほど前ではないかといわれています。しかし、フェレットのミイラ化された遺体はまだ発見されておらず、フェレットの象形文字も発見されておらず、現在その地域に野生のケナガイタチは生息していないため、その考えはありそうにないという考えもあります。古代ローマで狩猟に使用されていたという説もありますが〔Thompson 1951〕、これも詳細は不明です。その後、ヨーロッパでは、アナウサギやネズミを捕るために本格的に家畜され、フェレットを巣穴に放し、追いかけられた獲物が穴の外に出てきたところを猟師が捕まえる猟のスタイル (フェレッティング: Ferreting)が。今でもイギリスやオーストラリアでは狩猟に使われています。

フェレット

中世のルネサンス期には、貴族たちはフェレットを飼うことが流行しました。穴の中に潜る習性を生かして、狭い管の掃除や電線を引く工事などにも用いられていました。フェレットの体に電線やケーブルなどをつなぎ、人が通れないようチューブの中を行き来させることで電気工事を行っていたようです。フェレットは17世紀に初めてアメリカ大陸に持ち込まれ、1860年から第二次世界大戦の開始ま​​で、アメリカ西部の穀物倉庫をネズミから守るためにも広く使用されていました。

アメリカでは、1980年代までフェレットは比較的珍しいペットでしたが、カリフォルニア州鳥類・哺乳類保護プログラムによる政府の調査では、1996年までにアメリカ国内で約80万匹のフェレットがペットとして飼われていたと推定されています〔Jurel 1998〕。しかし、フェレットが生態系のバランスを崩す恐れがあるため、オーストラリア、ニュージーランド、ブラジル、アメリカなど飼育が規制されている地域があります。なお、日本では北海道では、フェレットは自治体に登録する必要があります。

現在、ペットのフェレットは世界中の繁殖場 (ファーム) で繁殖され、個体識別のために身体に入れ墨を入れたり、マイクロチップを挿入することもあります。ファームでは、特有の体臭を防ぐための肛門腺摘出手術、エストロゲン中毒を予防するための性腺摘出手術が行われ、さらに初回のジステンパーの予防接種も受けていることがほとんどです (初年度のワクチンは1回投与では不十分なため、獣医師と相談の上、追加接種を受けましょう)。

分類

ネコ目 (食肉目) イタチ科イタチ属                                                                        学名:Mustela putorius furo                                                                           英名:Ferret※                                                                                    Hob(ホブ)(オスのフェレット)、Jill(ジル)(メスのフェレット)
Gib(ギブ)(去勢されたオス)、Sprite(スプライト)(避妊したメス)                                                      Kits(キッツ)(1歳未満のフェレット)                                                                       別名:ケナガイタチ

※Ferret(フェレット)という名前はラテン語のfurittusに由来しており、小さな泥棒と言う意味で、これは、フェレットが好物など小さな物を隠してしまう傾向があることに由来していると思われます。

分布 (ヨーロッパケナガイタチ)

ヨーロッパ (ただし、スカンジナビアの大半を除く) からウラルの森林地帯

ヨーロッパケナガイタチ分布地図

身体

頭胴長:オス約40cm、メス約35cm                                                                        尾長:7‐10cm                                                                                    体重:オス1.0‐2.0kg、メス0.5‐1.0kg                                                                       オスはメスよりもかなり大きいです                                                      

毛色: 起源とされているヨーロッパケナガイタチは体と四肢の被毛は黒褐色で、下毛はクリーム色で、顔には黒色のくまどりがあります。

フェレットくまどり

生態 (ヨーロッパケナガイタチ)

・成体は1日14~18時間を眠って過ごし、夜明けと夕暮れの時間帯に最も活動的になるため薄明薄暮と言われています。                                                                                            ・小柄な体格ながら凶暴で、巣穴に潜って小型のげっ歯類を捕獲したり、休んでいる鳥類を狙ったり、時には小型の家畜も襲って食す肉食動物です。                                                                                            ・寿命:7~8年

ヨーロッパケナガイタチ
フェレット1ヵ月3ヵ月6ヵ月9ヵ月1年2年3年4年5年6年7年8年9年
1歳5歳9歳13歳17歳28歳36歳44歳52歳60歳68歳76歳92歳
表:フェレットと人の年齢換算表

性格と習性

イタチの戦争ダンス

家畜化されたフェレット性格は基本的に性格は温和です。好奇心旺盛な面も多く、人に慣れる動物です。興奮すると背中を丸めて飛び跳ねたり、頭を左右に動かしたり体をひねってダンスしているような動作をし、Weasel war dance (イタチの戦いの踊り) と呼ばれる自己主張をします。野生のイタチは狩りをする時にダンスのような動きをする動作と同じことから命名されました 〔King et al.2007〕。

フェレット

鳴かない

基本的に声をあげることはありません。しかし、かまってほしい時は「クークー」、遊んで興奮している時は「クックック」、「ウィウィ」、威嚇の時は、「シュー」、「シャー」などという声を出します。Weasel war danceとの時にはDooking(ドゥーキング)と呼ばれる独特の柔らかいコッコという音を伴うこともあります〔Tynes 2010〕。

異物癖

幼体は興味のある物は必ず咬んで確認し、特にゴム製品を好み、口腔内でくちゃくちゃできるものを口に入れる傾向があるため、誤食による腸閉塞に注意して下さい。

フェレット

食っちゃ寝食っちゃね寝

年とともに昼間も含めて1日の多くの時間を睡眠に費やすようになります。フェレットの睡眠は深く、起こしてもなかなか起きないのも特徴です。

フェレット睡眠

狩猟能力

狩猟能力は潜在的に残っており、狩りを模して狭い穴や隙間に好んで侵入したり、ネズミや小鳥などに過度に興味をもち、鋭い犬歯と爪で襲うため、これら小型ペットとの同居はできません。

くしゃみ

嗅覚は優れ、体臭により仲間を鑑別したり、環境の臭いをかいで状況判断を行います。正常なフェレットには、くしゃみをすることが多いですが、これは地面の臭いをかぐ時に、塵やほこりを吸いこむためです 〔Brown 1997〕。

体臭

体臭は特有の麝香臭を放ち、肛門腺、肛門付近に分布するアポクリン腺、身体全体に分布する皮脂腺が体臭の原因です。には、肛門腺から強烈な臭気を放ちます。肛門腺は肛門の脇に1対あり、天敵に襲われた時や興奮した際などのスカンクのように、臭い黄褐色の分泌物を飛ばします。「イタチの最後っ屁」とも呼ばれる自己防衛行動です。

特徴

胴長短足

体は細長い円筒状で、四肢は相対的に短いです。

フェレット

狩猟本能として、獲物を追って狭い所に潜り込むのを得意としています。そのため背骨の可動域が広く、体はしなやかに動けますので、穴に潜り込むことに適応しています 〔Thompson 1951〕。性格的にもトンネル、箱などの筒状の中に入り込むことを好みます。

フェレット骨格

可愛い顔

小さい頭に丸い耳介と小さい目を備えており、可愛い顔をしています。

フェレット

趾数は四肢ともに5本で、猫と異なり爪を引っ込めることはできません。

視力

夜行性であるため、視覚は優れていません。瞳孔は横長に収縮する卵型をしています 〔Miller 1997〕。

乳首

乳頭は4対 (8個) で、交互に位置しています。

尖った歯

フェレットの成体の歯列は切歯3/3 犬歯1/1 前臼歯3/3 後臼歯1/2で、計34本です 〔Church, 2007〕。肉を引き裂く裂肉歯をしており、通常の臼歯も餌を細かく擦りつぶすために石臼状になっていますが、前臼歯も尖った形状で、さらに上下で全く咬合していないのは、引き裂く機能を優先しているからです。そのためにペレットは歯ごたえがあり、研磨性があり、歯石を減らす機能が求められます 〔An et al.1981,Johnson-Delaney 2014〕。

短い腸

フェレットは犬や猫と比較して短く単純な消化管で、盲腸を欠いています 〔Bell 1999〕。単純な管腔なために餌の通過が速く、効率的に吸収されない構造をしています。小腸は身体の約5倍の長さで 〔Bell 1999〕、猫は8~10倍であることから 〔Bell 1999〕、かなり短いことが分かります。餌の消化管通過時間は約3時間 〔Powers et al.2012,Kupersmith 1998〕、幼体だとわずか1時間とさらに短い場合があり 〔Bell 1999,Kupersmith 1998〕、また肉を基本とした餌だと148~219分、ペレットでは150~180分 〔Bauck 1981〕と、犬や猫と比べてもとても短時間です。そのために吸収性が高い高タンパクで高脂肪の餌が必要となります。

悪心

食道が長いので、嘔吐は異物や重度の胃炎がないと見られません。口をムニャムニャしたり、舌なめずり、顎をひっかくという症状 (悪心) が気持ち悪い時に見られます。

季節繁殖

フェレットは季節繁殖動物で、繁殖期と非繁殖期において毛の色や皮脂腺の活動も変化します。繁殖期の毛は、短くて明るい色になり、非繁殖期で暗い色になります。また、非繁殖期の皮脂腺は皮脂が多くなり、下毛が黄色くなり、べたべたすることもあります。皮下脂肪も非繁殖期に多くなり、体重が30~40%も増えることもあります 〔Brown 1997〕。

繁殖期
非繁殖期

ポイントはコレ!

  • 食肉目のイタチの仲間
  • 小動物を食べる肉食動物
  • ヨーロッパケナガイタチを家畜化
  • 実験動物やネズミ対策でも飼育される
  • ファームで繁殖
  • 肛門腺から匂いを出す
  • 幼体時に性腺摘出、肛門腺除去、ワクチンを接種されている
  • 胴が長く四肢が短い

フェレットのこともっと詳しく書いてある本はコレ!

フェレット 飼育バイブル 長く元気に暮らす50のポイント (コツがわかる本!) .メイツ出版

参考文献

  • An NQ,Evans HE.Anatomy of the ferret.In Biology and Disease of the Ferret.Fox JG. ed.Lea & Febiger.Philadelphia:14-65.1988
  • Bell JA.Ferret nutrition.Vet Clin North Am Exot Anim Pract2(1):169-192.1999
  • Brown SA.Basic anatomy, physiology, and husbandry.In Ferrets,Rabbits,and Rodents Clinical Medicine and Surgery.Hillyer EV,Quesenberry KE.eds.WB Saunders.Philadlphia:3-13.1997
  •  Jurek RM.A review of national and California population estimates of pet ferrets Archived 2013-04-19 at the Wayback Machine. Calif. Dep. Fish and Game, Wildl. Manage. Div., Bird and Mammal Conservation Program Rep. 98-09.Sacramento.CA.1998
  • King CM,Powell RA.The Natural History of Weasels And Stoats:Ecology, Behavior,and Management 2nd ed. Oxford University Press.New York.2007
  • Kupersmith DS.A practical overview of small mammal nutrition.Semin Avian Exot Pet Med7(3):141-147.1998
  • Miller PE.Ferret ophthalmology.Semin Avian Exot Pet Med6(3):146-151.1997
  • Powers LV,Brown SA.Basic anatomy, physiology, and husbandry.In Ferrets,Rabbits,and Rodents Clinical Medicine and Surgery.3rd ed.Quesenberry KE,Carpenter JW.eds.Elsevier/Saunders.St.Louis:1-12.2012
  • Sato JJ,Hosoda T,Wolsan M,Tsuchiya K,Yamamoto M,Suzuki H.Phylogenetic relationships and divergence times among mustelids (Mammalia: Carnivora) based on nucleotide sequences of the nuclear interphotoreceptor retinoid binding protein and mitochondrial cytochrome b genes.Zoological Science20(2):243–64.2003
  • Tynes VV.Behavior of Exotic Pets.Chichester,West Sussex: Blackwell Pub:p234.2010
  • Thompson APD.A history of the ferret.J Hist Med Allied Sci6(4):471-480.1951

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。